心理戦の100万円アプリ
2人の脱落者
「ご飯できましたので食べる人はきて下さい」
キャバの声がカレーのいい匂いと一緒にこの家中に語りかける。
極端な話し、左利きでも解れば全然違う。テーブルにケンジと2人でカレーとご飯を運ぶ。
先程と同じ配置に7人が座り、会話はなく流れ作業の工場みたいにカレーをよそい配られる。
ハイエナ男だけは、隅に座りじっと様子を見ながら缶詰めを開けて先に食べている。
キャバが少し大きな声で手を合わせる。
「頂きまーす」
ほぼ全員が手を合わせる。合わせなかったのは、高3とパンチパーマ。
高3はゲームをまだしている。意外にモヒカンは手を合わせた。
モヒカンは携帯用のアルコール除菌で手とスプーンを消毒していた。
やはりすぐ情報が出てくる。
周りを見渡しながら食べる者、俯いて食べる者、癖なんかも出る。余り噛まない、よくこぼす、上品に食べる、いろいろだ。
一口食べて思考を巡らせていると舌に刺激が走る。
「あ……美味い」
「でしょお!? 女社長が隠し味に珈琲入れたのが凄かったの!」
喋りたくてたまらなさそうにキャバは机に手を置いて立ち上がる。
「お口に合う? 優君」
彩子はニヤついて美味しい表情をした僕を見つめる。何故かセクシーに見えて恥ずかしい。
そうか、もうみんな持ち味を出し始めてるんだ。
「うめぇ! うめぇ! かーちゃんのより美味いよ!」
ケンジは楽観的だけど、真剣なハートブレイクは見た事はないな。
食事が終わっても誰も動かない、ケンジが一回おかわりしたぐらいだ。テーブルの上をケンジと2人で片付けた。
そして間もなく9時。
タイムオーバーを避けるならそろそろ動かないとならない。
「本当になんにも入ってなかったのか?」
くいっとメガネをあげてハイエナ男が探りを入れる。
「美味かったな、あ、作ってくれた2人は今日は勝負辞めといてあげるよ」
モヒカンは、ビールを飲んで言葉使いが不安定に見える、そんな優しさなんかいらないだろ。
多分チームを組んでるのは僕らだけ、他は作れて2人まで。こちらのペースにしたい、つまり1人蹴落とす。
もう誰かは確定しているが、拒否権を使われると意味がないので、チームではないと動けない。
僕は合図として『9時になったね』
と呟くと全員がピクッと動く。
すかさずケンジはトランプを取り出す。
「暇だしカードしようか?」
「イカサマゲームだろ?」
ハイエナ男がケンジを睨む。
「いいよ、暇だし何かしてもらおうか?」
無言だったパンチパーマは同意する。
他の人間は何も喋らない、つまりゲームに乗るという事。
「じゃあマジックでもやりますか。今日脱落する誰かに必ず届くジョーカーのゲーム」
ケンジはトランプが踊る様な美しさと手捌きでカードを混ぜる。
その行動に高3以外全員釘付けになる。
探り所ではなく、脱落者を決めつけると言うのだから。
まず隣にいる彩子にケンジは立ち上がりトランプを見せる。
「この八枚の中から一枚引いて」
「きゃぁぁぁぁぁあ!」
一枚引いた彩子が悲鳴をあげてトランプを投げた。
どうした!? そんな慌てる事なんて打ち合わせにない!
ジョーカーが間違えてきたのか!?
「なんでエロいトランプなのよ! ドスケベ! ボケ、ナス、カス!」
「あれ? ウケると思ったのにな」
首を傾げるケンジはここまでくると逆に周りからしたら謎かもしれない。
「早く次に配れ」
パンチパーマがイライラ足を揺する。
配り終えるとケンジが全員が見渡す事ができる中央応接間寄りの椅子に座る。
「では、めくって下さい。ジョーカーが今日の脱落者です」
10秒ほどの長い間が空く。
「はーい私ジョーカー」
手を上げたのはキャバ。みんなが一斉にキャバを見る。
「説明してくれる? ギャンブラーさん」
ケンジはある1人を睨みつけやや口元だけ笑みをこぼす。
「説明するよ。勿論誰が脱落者かは解らないよ、問題はカードを見てからの五秒程の間。ジョーカーを引いたら当然心が乱れて当然だけど。普通ならこの状況でリアクションなんかない。個々に思考のレベルの格差があるのが明らか。まず1番最初にレベルの低い者を炙り出したのさ」
大声で指を指すケンジはおちゃらけが一切無くなっている。
「ハイエナ男さん。あなたが1番表情がほっとしていた。それだけでは根拠にはならないが、今までの警戒心がそれを確定付けてる。だってあだ名が『ハイエナ』だしね」
「そんなものは根拠にもならない!」
ハイエナ男は立ち上がり、明らかに取り乱した。何も言わなくてもこの時点でアウト、自己紹介時の時点でここまでは解っていた。しかしケンジは更にトドメを刺した。
「試してみる? 『確信』があるんだ、あんたが1番弱い。ハートブレイクだ」
ハイエナ男はハートブレイクに暫く黙る。
ハートブレイクを断れば、怪しまれ次々にハートブレイクされる危険がある。同時にこれを論破できれば、難を逃れられる。
ハートブレイクを受ければ受けるで、絶対勝たないといけない。真偽はどうでもよくなり、敗者に群がるからだ。
「断る、弱いのはお前だろ? だから適当に俺を選んだんだ」
「適当? ボロが出たね。それなりの警戒心と臆病さからパニックになってるんじゃないのか? 今自分で認めたんだぞ?」
「そんな馬鹿な!」
ケンジは鮮やかにハイエナ男の臆病さを引っ張り出した。
「ほら引っ掛かった。『そんな馬鹿な!』の言葉で確定したんですよ」
パチパチパチと拍手をする人間が1人いた。
「やるなあ茶髪、へへへ」
モヒカンが嬉しそうに笑う。
それを機にみんなが一斉に詰め寄りハートブレイク! と叫ぶ。この場合ケータイで確認したが、されたほうが相手を指名できる。敗者に勝負が好ましいが潰れてしまっては意味がない。
皆が我先にと仕掛ける。
ハイエナ男はキャバを指名してあの個室部屋に入っていった。どちらかが潰れる。可能性だが、先に出てきたほうがほぼ勝利した方だ。
個室付近に皆が密集して敗者がでるのを待つ。
するとゲームをしながら密集している所に行き、強面のパンチパーマに高3が突然宣言した。
「おっさん、ハートブレイク」
パンチパーマはポケットに手を突っ込み威嚇する。
「なんや、ワシに言うてるんか?」
「逃げるの? 受けるの?」
キャバの声がカレーのいい匂いと一緒にこの家中に語りかける。
極端な話し、左利きでも解れば全然違う。テーブルにケンジと2人でカレーとご飯を運ぶ。
先程と同じ配置に7人が座り、会話はなく流れ作業の工場みたいにカレーをよそい配られる。
ハイエナ男だけは、隅に座りじっと様子を見ながら缶詰めを開けて先に食べている。
キャバが少し大きな声で手を合わせる。
「頂きまーす」
ほぼ全員が手を合わせる。合わせなかったのは、高3とパンチパーマ。
高3はゲームをまだしている。意外にモヒカンは手を合わせた。
モヒカンは携帯用のアルコール除菌で手とスプーンを消毒していた。
やはりすぐ情報が出てくる。
周りを見渡しながら食べる者、俯いて食べる者、癖なんかも出る。余り噛まない、よくこぼす、上品に食べる、いろいろだ。
一口食べて思考を巡らせていると舌に刺激が走る。
「あ……美味い」
「でしょお!? 女社長が隠し味に珈琲入れたのが凄かったの!」
喋りたくてたまらなさそうにキャバは机に手を置いて立ち上がる。
「お口に合う? 優君」
彩子はニヤついて美味しい表情をした僕を見つめる。何故かセクシーに見えて恥ずかしい。
そうか、もうみんな持ち味を出し始めてるんだ。
「うめぇ! うめぇ! かーちゃんのより美味いよ!」
ケンジは楽観的だけど、真剣なハートブレイクは見た事はないな。
食事が終わっても誰も動かない、ケンジが一回おかわりしたぐらいだ。テーブルの上をケンジと2人で片付けた。
そして間もなく9時。
タイムオーバーを避けるならそろそろ動かないとならない。
「本当になんにも入ってなかったのか?」
くいっとメガネをあげてハイエナ男が探りを入れる。
「美味かったな、あ、作ってくれた2人は今日は勝負辞めといてあげるよ」
モヒカンは、ビールを飲んで言葉使いが不安定に見える、そんな優しさなんかいらないだろ。
多分チームを組んでるのは僕らだけ、他は作れて2人まで。こちらのペースにしたい、つまり1人蹴落とす。
もう誰かは確定しているが、拒否権を使われると意味がないので、チームではないと動けない。
僕は合図として『9時になったね』
と呟くと全員がピクッと動く。
すかさずケンジはトランプを取り出す。
「暇だしカードしようか?」
「イカサマゲームだろ?」
ハイエナ男がケンジを睨む。
「いいよ、暇だし何かしてもらおうか?」
無言だったパンチパーマは同意する。
他の人間は何も喋らない、つまりゲームに乗るという事。
「じゃあマジックでもやりますか。今日脱落する誰かに必ず届くジョーカーのゲーム」
ケンジはトランプが踊る様な美しさと手捌きでカードを混ぜる。
その行動に高3以外全員釘付けになる。
探り所ではなく、脱落者を決めつけると言うのだから。
まず隣にいる彩子にケンジは立ち上がりトランプを見せる。
「この八枚の中から一枚引いて」
「きゃぁぁぁぁぁあ!」
一枚引いた彩子が悲鳴をあげてトランプを投げた。
どうした!? そんな慌てる事なんて打ち合わせにない!
ジョーカーが間違えてきたのか!?
「なんでエロいトランプなのよ! ドスケベ! ボケ、ナス、カス!」
「あれ? ウケると思ったのにな」
首を傾げるケンジはここまでくると逆に周りからしたら謎かもしれない。
「早く次に配れ」
パンチパーマがイライラ足を揺する。
配り終えるとケンジが全員が見渡す事ができる中央応接間寄りの椅子に座る。
「では、めくって下さい。ジョーカーが今日の脱落者です」
10秒ほどの長い間が空く。
「はーい私ジョーカー」
手を上げたのはキャバ。みんなが一斉にキャバを見る。
「説明してくれる? ギャンブラーさん」
ケンジはある1人を睨みつけやや口元だけ笑みをこぼす。
「説明するよ。勿論誰が脱落者かは解らないよ、問題はカードを見てからの五秒程の間。ジョーカーを引いたら当然心が乱れて当然だけど。普通ならこの状況でリアクションなんかない。個々に思考のレベルの格差があるのが明らか。まず1番最初にレベルの低い者を炙り出したのさ」
大声で指を指すケンジはおちゃらけが一切無くなっている。
「ハイエナ男さん。あなたが1番表情がほっとしていた。それだけでは根拠にはならないが、今までの警戒心がそれを確定付けてる。だってあだ名が『ハイエナ』だしね」
「そんなものは根拠にもならない!」
ハイエナ男は立ち上がり、明らかに取り乱した。何も言わなくてもこの時点でアウト、自己紹介時の時点でここまでは解っていた。しかしケンジは更にトドメを刺した。
「試してみる? 『確信』があるんだ、あんたが1番弱い。ハートブレイクだ」
ハイエナ男はハートブレイクに暫く黙る。
ハートブレイクを断れば、怪しまれ次々にハートブレイクされる危険がある。同時にこれを論破できれば、難を逃れられる。
ハートブレイクを受ければ受けるで、絶対勝たないといけない。真偽はどうでもよくなり、敗者に群がるからだ。
「断る、弱いのはお前だろ? だから適当に俺を選んだんだ」
「適当? ボロが出たね。それなりの警戒心と臆病さからパニックになってるんじゃないのか? 今自分で認めたんだぞ?」
「そんな馬鹿な!」
ケンジは鮮やかにハイエナ男の臆病さを引っ張り出した。
「ほら引っ掛かった。『そんな馬鹿な!』の言葉で確定したんですよ」
パチパチパチと拍手をする人間が1人いた。
「やるなあ茶髪、へへへ」
モヒカンが嬉しそうに笑う。
それを機にみんなが一斉に詰め寄りハートブレイク! と叫ぶ。この場合ケータイで確認したが、されたほうが相手を指名できる。敗者に勝負が好ましいが潰れてしまっては意味がない。
皆が我先にと仕掛ける。
ハイエナ男はキャバを指名してあの個室部屋に入っていった。どちらかが潰れる。可能性だが、先に出てきたほうがほぼ勝利した方だ。
個室付近に皆が密集して敗者がでるのを待つ。
するとゲームをしながら密集している所に行き、強面のパンチパーマに高3が突然宣言した。
「おっさん、ハートブレイク」
パンチパーマはポケットに手を突っ込み威嚇する。
「なんや、ワシに言うてるんか?」
「逃げるの? 受けるの?」