心理戦の100万円アプリ
なんだ、パンチパーマに落ち度はなかったぞ。
絶対勝つ自信があるのか? 無差別か? 落ち度を見つけたのか? 拒否権は残しておきたい所だ、モヒカンがいるから。
密集していた僕らもハートブレイクを拒否されて、すぐまた高3に無差別にされるのを恐れて少し離れる。
「ワシに落ち度があるっちゅーんかい?」
「言ってもいいの? みんなにバレちゃうよ?」
「言うてみい、違ったらお前が取り消せ」
高3はゲームをしまうとパンチパーマのスーツに指を持っていく。
「スーツに毛がついてる。しかも恐らく犬の、臭いもかすかにする。……まだ続けようか?」
「いや、もうええ、ハートブレイクや。個室こいや」
2人はすぐ隣の部屋の個室に入った。
当然防音は完璧で声なんか聞こえない。
この心理戦で大事なのが、観察力。
目を見て全体も見る、僕はパンチパーマの犬の毛までは解らなかった。
しかしそれだけでハートブレイクするとは……。
相手の仕掛けも解らないのに、若さからの自信か?
中で始まるハートブレイクの時間も重要だ、勝者はそれだけでまったりか、激しいかの性格のどちらかに傾く。
そして、強い弱いも。
とにかくケンジはハイエナ男に拒否権を使われて無理だからパンチパーマか、高3どちらかに仕掛ける事ができる。
「優くん、犬の毛でどこまで解る?」
ケンジは近寄るとコソリと耳打ちする。彩子も連れて大広間にいき、小さな声で話す。
「今2組ハートブレイクしている、ハイエナ男のポイントは、レベルが低い事、そして警戒心が強すぎる事だ。警戒心が強すぎるのは、裏を返せばそれ程の何かがあるという事。
それだけ聞き出せば簡単に落ちる。そこまではいいか?」
2人共頷く。
「そしてパンチパーマの犬の毛だ。犬を飼っているのは間違いない、外出用の服についてるくらいだ、かなりなついている。つまり犬が大事なモノと言う事だ。先程のもういいと言ったのは認めた証拠でもあり、そこは聞かれたくないという証拠」
「うん、それで?」
「黙って、ケンジ」
彩子は少しボリュームの大きいケンジの声を遮る。
「そこからは崩し易い。動物好きで優しいのか? でもなんでも崩せる、後はパンチパーマの仕掛けが何か? と言う事。どちらにせよ、敗者はヒーラーされない限りかなり弱った状態にある。今回はリーブが使えない、それもポイントだ、精神状態不安定は間違いない。そこを攻める」
「俺はパンチパーマ組の敗者を狙うよ」
賢次はハートブレイク部屋に目をやる。
「私と優君はハイエナ男組の敗者、もしくはケンジの勝負が終わった後でどちらか好きなほうね」
後は思惑通りに事が進んでくれるのを祈るのみ。
「OK、さあ行こう」
丁度ドアのまえでたむろしているモヒカンの前を通過して座る所を通過しようとしたら高3が出てきた。
もう!? 早い! まだ15分も経ってないぞ!
タイミング良く、丁度入れ替わりの様にケンジが入った。
高3はそのまま応接間にあるバッグから衣服を取ると、シャワールームに向かって消えた。
モヒカンと絶対に目が合わない様に時間を潰し待っていると、キャバが顔を出した。
僕も彩子が詰め寄ろうとするとキャバはモヒカンを向き投げキッスをする。
「次はモヒカンがいいんだって」
僕らが固まっている隙にモヒカンが入っていった。
しまった、キャバにやられた! モヒカンなんか指名する訳ないのに、それを言う事でモヒカンがハートブレイクしてしまう。
モヒカンにやられたらメチャクチャになってしまう……ハイエナ男が。
ハイエナ男がゲームオーバーになるとする。
するとまた一組新しくハートブレイクが出てしまう。リスクが高まり、ポイントもどこまでやられればゲームオーバーになるのかも解らない。
くそ!
キャバは少し離れた階段にから両肘に顔を乗せ、高見の見物する。
「ねえ、ダウンのパーマ君。もう1組は誰がやってるの?」
「自分で考えろよ」
ニヤついたキャバの顔が、最初にハートブレイクでやられたのを思い出させられて、ダウンの中の拳を握る。
「君名前なんだっけ? キャハ! ねぇまたキスしてあげるからヒーラーされてよ」
ムカついてしまうが表には出せない。これは忘れないといけない感情、無視をしてドアを見つめる。
「下品極まりないわね、不愉快よ」
腕を組み攻撃的な目で彩子は睨むと、それを受けて睨み返すキャバ。
「そっちは上品極まりないつもり? 3人でつるんじゃったりしてさ」
「面倒ね、いいわ。あんたと今勝負してあげる」
真剣な顔をしたキャバは暫く考えた様子で、彩子との視線を外して階段の上へと消えた。
「今日はやめとくわ」
ピリピリとした沈黙の雰囲気に10分も経たない内、モヒカンがドアを明け僕に目を合わせる。
「こいよ、お前だ」
僕が指名された、彩子は1人で待つ事になる。部屋に入り鍵をかけるがすぐ違和感に気づく。
あれ? なんだ、ハイエナ男普通な顔して平然としている。精一杯の抵抗か? もう2連敗してるはずなのに。
椅子に座るとケータイを机に置く。
「ハートブレイク」
ハイエナ男もすぐに受ける。
「ハートブレイク」
「さっきモヒカンと何があった?」
ハイエナ男は目線を下に微かに笑う。
「助けてくれたよ。ヒーラーしてくれたんだ、次に負けない様にって」
「ヒーラー!? 馬鹿な! モヒカンが!?」
「ほら、感情高ぶってるよ」
モヒカンのヒーラーは間違いなさそうだ、ここは切り替えるしかない。出来るだけ情報を引き出さしてから勝つ。
「どうヒーラーされたの?」
「簡単に言うかなあ? 言わないだろ?」
主導権を握ったつもりか、上から喋るハイエナ男の顔が憎たらしく感じる。
「モヒカンに騙されてない?」
「さっき貰ったポイントでマイナスはない」
「ポイントを貰った? それよりこの後全員とハートブレイクさせられるのに生き残れる訳ないだろ」
ハイエナは頭を抱える。僕に勝つという考えがすぐ出てこないだけでもう駄目だなコイツは。
「な? だからどうやってヒーラーされたのか教えてくれよ。そしたら生き残れるくらいにはしてやる」
これで反論ならバトル、乗ればもう誰かに頼らないといけないという負け犬思考。
「簡単に言えばポイントあげるからヒーラーされてくれって言われたんだよ。お互い利害一致でポイントが振り込まれるケータイの画面も証拠に見してもらった」
「俺が勝ってまだあんたがゲームオーバーにならなければ、勝ち方を教えてやる。次は必ず女社長を指名するだからだ」
「教えてもいいが、勝ち方が嘘かもしれない。お前ら三人組だろ?」
ここまで来て疑う事だけは真剣になってくる。まあいい、それがお前の限界だ。
「裏切るのさ、女社長はもういらない。女社長も負けたらハートブレイクされまくって潰れるしな」
「裏切るのか?」
「裏切るも何も僕からとったら駒さ。一度ハートブレイクしたから勝ち方を知ってる」
ハイエナ男は考えて黙り込むが、この話しに乗るしかない。もう後がないんだから。
「解った、先に教えてくれ。女社長の弱点。それとポイントを最小限に抑えて生き残れる様にしてくれ」
「OK、まず女社長だけどね、実は普通のOLだ。プライドが高く、人を落とし入れるのが趣味な最低な女さ」
柔らかい口調で出来るだけハイエナ男をまず安心させる。
「で? 肝心の倒し方は?」
ここまで言っても勝ち方も解らないのか、潰してもいいがまだ情報を貰っていない。
「介護している実の母親だ。女社長からは想像できないだろ? 母親を大切にしてるのに、実は遺産目当ての最低な事をしている。それを話したらすぐ逆上してそのまま終わりさ。ここまで情報があれば余裕だろ?」
下から睨んでくる、ハイエナ男。
「嘘かもしれない」
「彼女の指輪を見てみなよ、なんだと思う? ドクロだよ。人を落とし入れる自分と、もう余生がない母親への気持ちからしてるんだ。見なかったか?」
「見た、チラッとだけど多分ドクロだった」
少し緊張が柔らかいだ顔つきで、引いていた顎が正面の角度に戻ってくる。
「だろ? じゃないとあんなナンセンスな指輪する訳がない」
「ふむ、だが確定はしていない」
ハイエナ男の用心深さは本当に筋金入りだな……。ここまでだな。立ち上がり机に手を置く。
「もう選択肢があんたにはないんだ。わかるか? 断ればスラッシャーで徹底的に潰す。受け入れれば女社長も潰れて一石ニ丁。ハイエナさんからくる情報が嘘だと判明しても潰す」