心理戦の100万円アプリ

神論

 スピーカーのスイッチが入る鈍い低音で起き、目をうっすら開けて耳を集中させる。音楽が少し流れた後に音声が鼓膜に響いた。

「皆さん朝ですよお、起きて下さい。プレゼントがあります。九時に一階のテーブルに集合して袋を開けてね」

『ブツン』

 ケータイを見ると7時。見渡すと誰もベッドにいない、僕以外全員起きてる。盗聴器でもないか調べながら服を着る。

 下に降りると、朝ごはんの支度をしているたのはキャバと彩子。

「おはよう、悪いね朝から作らせて」


「いいよお、ウチ料理好きだし」

 目玉焼きを皿に移すキャバは鼻歌で機嫌がいいのが解る。昨日の事もう忘れてるのか。切り替えも大事、か。

「優君は何味の目玉焼きがお好み?」

 彩子はスーツから紫のワンピースに着替えていて、大人っぽく色気のある撫で声を出す。

「おはよ、目玉焼きはポン酢がいいな。ある?」

「俺ね、ソース。絶対ソース。優くん子供だなー。おはよ彩子」

 ケンジは暖炉の前からやってくるのを見て彩子はソースを取り出し、流し台に逆さまにしてソースを捨てる。

「今無くなったよ。ボケ、ナス、カス」

 ケンジはそれを見て無言で階段を上がって行った。

「朝から喧嘩するなよー、傷ついたんじゃないのか?」

 頭を掻きながらアクビをする。どうせ、いつものやり取り、朝から気にしてられない。

「優くんは、アクビも可愛いね」

「え?」

 アクビが止まると、ケンジが階段を激しい音を立ててソースを持ってくる。

「時前もあるもんね!」

 彩子は切れ目の瞳に感情を込めて見下す。

「ボケナス」

「聞いた? 優くん、カスが減った!」

 笑顔のケンジに肩をソースの容器で小突かれる、朝から面倒くさい。

 自己紹介の時と変わらない位置で男性陣が全員座ると、目玉焼きとベーコンと味噌汁ご飯が運ばれてくる。
 1人減ったが誰も何も言わないし、食事の会話もない。


「目玉焼きおかわり!」

 ケンジはくちゃくちゃ音を立てて皿をキャバに渡そうとする。


「ねーよ、自分で作りなよ」

 キャバがそのマナーの悪さに朝から少し不機嫌そうだ。

「ちぇ、残りのカレー食うか」

 その一連のやり取りに誰も反応しない。別に誰かが誰を攻撃する訳でもなく、朝食は終わる。
 皆九時に仕掛けられるのに警戒している。

 僕らは三人中央応接間に集まると、昨日聞いたキャバのやり口を伝える。
 これはかなりデカイ収穫、その話しの流れにもっていかないだけでかなり有利。

「……それと、九時からの仕掛け。多分ビックリする内容だが、リアクションは絶対に避ける事。僕らのペースに持っていく事、ケンジのトランプが1番いい。そうなるように僕と彩子がフォロー」

 僕は2人の頷きに確認する。周りは少しも変わった様子がない、むしろ無いようにしている。

 九時五分前になるとみんなが着席していた。いつの間にか真ん中に置かれた緑のプレゼントボックスが気になる。

 彩子の左には僕が座り、指輪をできるだけ悟られないようにする。
 賢次は反対に座らせる、指示が出しやすい。

 九時ピッタリりなるとスピーカーから音楽と歌が聞こえてくる。
 始まる!

「はあい! 皆さん集まってくれてありがとう! では、指名させて貰います、モヒカンさん袋を開けて下さい」

 大きな箱に星マークが施された袋をモヒカンは、傷つけずに丁寧に開ける。その様子を全員釘付けになる。
 するとボックスが出てきて、抽選券みたいに手を突っ込む所がある。


「今回はこれがゲームだよ! ゲームオーバーが最低1人出るまで続けて貰います。ポイントもゴッソリ移動するから、バリバリ稼いでね。終了はこちらが判断するまでです。マジックボックスの中にお題が入っています。それについて話し合って下さい。違うお題にする時はみんなで話し合ってね! それでは……始めて下さい」

 これはマズイ。全員ハートブレイク状態、チームとして動くのも難しくなる。一気にこのゲームで優勝者が決まってもおかしくない。


 キャバは全員に考える時間を無くす様に派手な色のセーターをめくる。

「私が引くよ?」

 手を突っ込んで一枚プレートが出てきた。
 お題の重さに全員固まる。


 プレートには『神』とかかれている。


 どう出るか、どう捉えるか。これは答えがない、かなり深くまで潜る必要がある。

 
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