心理戦の100万円アプリ
京都
「おい渡辺、どう思う?」
「解らない、けどもう優勝だけすればいいや、という問題じゃなくなってきてる。永遠勝負させられて借金を大きく背負うハメになる。運営の黒幕まで行かないと終わらない気がする」
右耳のピアスを触りながらケータイのアプリを見つめるモヒカンは暫く黙り込む。
「僕達3人が誰か優勝したら、賞金は全てやるから協力してくれないか?」
「お前実力で昨日俺に勝てたと思ってるのか? ほっといても俺が必ず優勝する。いい話しだが仲良しこよしはごめんだ。否定だな」
何人か階段を上がってくるが、モヒカンがその度に睨むものだから誰も上がってこない。
時間が経つのが遅く感じる、会話もなくなって目の前のハンバーガーセットも完食した。モヒカンはひたすら階段を見ている。
「きたぜ、お仲間」
「どういう事、優くん。げ! モヒカン!」
頼むからここで揉め事はしないで欲しいが、モヒカンも馬鹿じゃない。まずは一刻も早く四人の意思を固める事だ。
「元気か? 茶髪ぅ」
「なんだよ、勝負すんのか?」
やっぱりこの2人は相性最悪、もういいから見える所に早く上がってきて欲しい。
「邪魔よケンジ。まず話しが先よ」
奥から彩子が来て隣に座ってくる。2人同時に来てたのか。
「ケンジ、お前もこっちに座ってくれ」
「うわ! 四人席じゃん。モヒカンの隣やだよ俺」
横から椅子を持って来たケンジもようやく彩子の隣に座るり、真剣な顔つきを向けてくる。
「で、どうなってるの?」
メガネをかけて臨戦態勢に入った彩子はケータイの次にモヒカンを睨む。
「渡辺説明しとけ、俺はタバコ吸ったら帰ってくる」
モヒカンは喫煙ルームに入って行くのを見て、昨日のアプリの電話からの流れを説明するしかない。
「まず昨日の着信から今までの流れを話すから聞いてくれ」
戦争で突撃前の作戦会議の様に、2人は瞬きすら惜しむ様に話しに食い入る。
五分も経ったくらいにモヒカンが戻ってきて元の席に座るとアクビをした。
「終わったか?」
「今終わった所だよ。……すまん、ケンジと彩子を巻き込んで」
内容を聞いて黙り込んだ2人に頭を下げる、またあのゲームに突然巻き込んでしまったのだから。
「私とケンジは問題ないわ、それよりどうするの?」
深く腰掛け直したケンジは大きく溜息をついた。
「行くしかないっしょ。京都」
『ヴヴヴヴヴヴ』
机の上の僕のケータイだけが音を立てて動くのと同時に3人の目が集中してそれに向く。
スピーカーにして通話画面をタップする。
「はあい! 皆さん揃いましたね? ではそこから四人150m以上離れない様に京都駅まで新幹線で来て下さい」
「金は? 俺は持ち合わせてないぞ」
椅子を揺らしながら鼻をほじくるモヒカンは、もうこの理不尽なゲームに文句を挟む様子はない。
「ケータイに電子マネーを振り込むのでそちらをお使い下さい。使い方が解らない場合はその他の説明に書いておきます」
「ケッ。解ったよもう消えろ」
向こうから通話は切られた。つまり、スタート。
「とりあえず店の前に車を止めてるから駅まで車でいきましょう」
3人は立ち上がり無言で階段を降りて行くが、僕は何か納得がいかない。暗くなったケータイ画面を見ながら、何が納得いかないのかを考える。
「優くん、先行って待ってるよ。遅れたからモヒカンの隣ね」
ケンジの声は耳には入ったが頭の中を素通りした。絶対何か変だ、おかしくもないけどこんな流暢に話しが進むものだろうか?
ケンジと彩子があの後相談して、すぐ来れる様にしていたら辻褄は合う。モヒカンはそれらしい動きにも見える、けどなんで何もトラブルが起きない? こんな大事に。
するとケータイ画面がパッと明るくなる。
バイブも音も鳴らずに着信。なんだ? 画面をタップするとボーカロイドが出た。
「時間がないから早く移動してよね。……いい事教えてあげようか?」
僕1人になるのを見計らっていたのか?
「何?」
「他のプレイヤーには渡辺様の口からは秘密だよ。スラッシャー、ヒーラー、どっちも不完全だよね?」
「どういう意味?」
「勝ち進めば全員解る事になるけど、特別に教えてあげる。それは」
『パーフェクトスラッシャー』
『パーフェクトヒーラー』
「完全に壊す、完全に救う。この二つがゲームの鍵で、このアプリの目的でもあるの」
「完全になんて無理だろ! なんで教える? なんで僕にだけ?」
ボーカロイドは小声で耳打ちする様な仕草をとる。
「後は内緒。じゃあね」
ざわつきが一本の線となり、確信する。
単なる金儲けだけのアプリじゃない。もっととんでもない大きな事をアプリは目指していて、僕達は加担させられている。
再び呼びに来たケンジに腕を引っ張られたまま、車に乗るが周りの音が全く聞こえない程にさっきの言葉の意味を考える。
パーフェクトヒーラー、パーフェクトスラッシャー……、完全にか。確かにスラッシャーとヒーラーは時間が経てば無くなってしまうか、薄れてしまう。
完全に、つまり一生その状態が続くという事でいいのか? そんなの出来るのか? それがアプリの目的?
「駅着いたよ、優くん! 優くん! 次新幹線!」
「ほっとけ茶髪ぅ、馬鹿になったんだろ」
「150m離れたら全員アウトだよ? いいの? モヒカンの馬鹿」
ケンジとモヒカンの喧嘩が見える、周りが全く見えてない状態だったか。
「ごめん、すぐ行く」
「ずーっと何考えてたの? 何聞いても親指噛んだまんま無視なんだもん」
彩子が腕にしがみついて、外に誘導してくれる。また異常に接近してくる彩子からは忘れそうになってたキツイお香の匂いがしてくる。
「考える優くんも素敵」
「おい茶髪ぅ、何だアレ」
「彩子の病気。あんまり近づくと蹴りが来るよ」
しまった、僕が四人をバラバラにしてどうするんだ。彩子の手を強引に引いて、2人の所へ急いで距離を縮める。
「行こう彩子、ごめん2人共。急ごう」
人混みに混ざると、全員ケータイの電子マネーで支払いを済ませてホームに入る。
「やっぱり、電子マネーで払えるのなら何でも買えるわ」
売店で四人分の弁当と飲み物をケンジに持たせて、彩子が頭を傾げて向かってくる。
「彩子、残高は? いくら入ってたの?」
モヒカンの周りだけ人が避けて通るので、一緒にいる僕が彩子に声をかけるとこっちまで目立つ。
「それが、表示されないの」
「そんなのどうでもいいだろ、新幹線が来たからさっさと乗るぞ。オラ、何見てやがる」
周りを威嚇しながらモヒカンは苛つきを見せて先に乗り込む。
「半分持ってよ! 優くん」
「もうすぐそこだ、あれ? 夜の分も買ったの?」
両手に、袋が重みで千切れそうになる程の袋を持つケンジの手が震えている。
「俺の昼飯、弁当2箱と3時のオヤツと弁当もう1つ」
「ほとんどケンジのだからやっぱり1人で持ってきてな」
ケンジを置いて指定席の彩子の隣に座る。モヒカンは反対側で1人で足を組んで外を見ている。
遅れてケンジが前の席に座ると、袋を重そうに隣に置いた。
「なんでまた俺1人なんだよ! モヒカンは1人がいいんだろうけど」
「黙れ茶髪ぅ、さっさと弁当と酒よこして静かにしてろ」
ケンジは、黙って弁当を取り缶ビール二本をモヒカンに渡すと、椅子を回転させて、四人席にする。
「いやにあっさりモヒカンに渡したな、大人な所あるじゃんケンジ」
ケンジはニヤニヤ笑うとモヒカンを指差した。
外を見ながら缶ビールを開けた瞬間、音を立てて大量の泡が吹き出してモヒカンの服にこぼれる。
それを見て黙って缶ビールを置くと、外をまた見始める。
やっぱりモヒカンも考え事があるのか。
「なんだ、つまんねえ」
ケンジはぷいと自分の弁当に目をやり、蓋を開けるといつもの調子で弁当を口にかきこむ。
彩子が溜息を大きくすると、同時にゆっくりモヒカンが立ち上がるのが見えた、ヤバイ。
彩子の手を引き立ち上がると少しその場から離れると、ケンジがその様子に気づく。
「ん? 2人共オシッコ? それより京都っていったら舞妓だよ、メガネ舞妓」
その後ろから、モヒカンはケンジの頭にビールをかける。
「なっ!」
驚いて振り返るケンジの胸ぐらを掴んでモヒカンは目で殺すと言わんばかりにケンジを睨む。
「次舐めた真似したら殺す、本当に殺す」
手を離すとモヒカンは先程の席に戻り外を眺めだした。
彩子と2人でまた大きく溜息をついて席に戻る。
「少しは懲りたか? ケンジ」
「ボケ、ナス、カス」
疲れた顔の僕と怒りの目の彩子を他所にケンジはぶつぶつ小声を出す。
「次はバレないようにする」
スピードに乗った新幹線はごうごうと音を立てて進む。彩子が眠るのを最初に僕も眠りにつく。
足をトントンと触られる気配で目が覚めるとアナウンスが、京都駅到着前を告げた。
「起こしてくれてありがとう、ケンジ寝てないのか?」
「うん、なんだかやっぱり緊張してて」
「彩子は?」
「少し前に起きたよ、今トイレに行ってる」
モヒカン……は、外見たまんまか。寝てるのか起きてるのか解らないな、ギリギリで声をかけるか。
「優くん、お目覚め?」
「うん、もう着くな」
新幹線は減速を始めだした。
『京都駅、京都駅』
モヒカンはそのアナウンスで立ち上がると、ドアに向かう。
僕らも無言でその後に続く。
さすがに人が多いな。改札を通り、外に出ると四人共ケータイを出す。アプリから着信が来るはずだからだ。
雪がかなり勢いをつけて降っているな、交通規制がつくんじゃないのか? するとすぐ、バイブが鳴りメールが来る。それを開くとやはりだ。
次のステージだろう住所が乗っている。
モヒカンは1人でタクシーに乗り込むのを見て、慌ててすぐ後ろのタクシーに3人で乗り込む、150m離れるとアウト。
「前の車に離れないようにピッタリついて行って下さい」
もう次の敵まで後少し。隣に座るケンジも前の彩子も口を開かない。次はこの3人最初から敵同士になる可能性も高いからか。
一時間半程走ると、やがてキャンプ場に着き灯りがついたコテージに着いた。
タクシーを降りて大きなコテージを見上げる。
ここが次のステージ? どんなやつが? 何人集まるんだ?
先頭を切り、僕がドアをゆっくり開けた。
「いらっしゃい」
「解らない、けどもう優勝だけすればいいや、という問題じゃなくなってきてる。永遠勝負させられて借金を大きく背負うハメになる。運営の黒幕まで行かないと終わらない気がする」
右耳のピアスを触りながらケータイのアプリを見つめるモヒカンは暫く黙り込む。
「僕達3人が誰か優勝したら、賞金は全てやるから協力してくれないか?」
「お前実力で昨日俺に勝てたと思ってるのか? ほっといても俺が必ず優勝する。いい話しだが仲良しこよしはごめんだ。否定だな」
何人か階段を上がってくるが、モヒカンがその度に睨むものだから誰も上がってこない。
時間が経つのが遅く感じる、会話もなくなって目の前のハンバーガーセットも完食した。モヒカンはひたすら階段を見ている。
「きたぜ、お仲間」
「どういう事、優くん。げ! モヒカン!」
頼むからここで揉め事はしないで欲しいが、モヒカンも馬鹿じゃない。まずは一刻も早く四人の意思を固める事だ。
「元気か? 茶髪ぅ」
「なんだよ、勝負すんのか?」
やっぱりこの2人は相性最悪、もういいから見える所に早く上がってきて欲しい。
「邪魔よケンジ。まず話しが先よ」
奥から彩子が来て隣に座ってくる。2人同時に来てたのか。
「ケンジ、お前もこっちに座ってくれ」
「うわ! 四人席じゃん。モヒカンの隣やだよ俺」
横から椅子を持って来たケンジもようやく彩子の隣に座るり、真剣な顔つきを向けてくる。
「で、どうなってるの?」
メガネをかけて臨戦態勢に入った彩子はケータイの次にモヒカンを睨む。
「渡辺説明しとけ、俺はタバコ吸ったら帰ってくる」
モヒカンは喫煙ルームに入って行くのを見て、昨日のアプリの電話からの流れを説明するしかない。
「まず昨日の着信から今までの流れを話すから聞いてくれ」
戦争で突撃前の作戦会議の様に、2人は瞬きすら惜しむ様に話しに食い入る。
五分も経ったくらいにモヒカンが戻ってきて元の席に座るとアクビをした。
「終わったか?」
「今終わった所だよ。……すまん、ケンジと彩子を巻き込んで」
内容を聞いて黙り込んだ2人に頭を下げる、またあのゲームに突然巻き込んでしまったのだから。
「私とケンジは問題ないわ、それよりどうするの?」
深く腰掛け直したケンジは大きく溜息をついた。
「行くしかないっしょ。京都」
『ヴヴヴヴヴヴ』
机の上の僕のケータイだけが音を立てて動くのと同時に3人の目が集中してそれに向く。
スピーカーにして通話画面をタップする。
「はあい! 皆さん揃いましたね? ではそこから四人150m以上離れない様に京都駅まで新幹線で来て下さい」
「金は? 俺は持ち合わせてないぞ」
椅子を揺らしながら鼻をほじくるモヒカンは、もうこの理不尽なゲームに文句を挟む様子はない。
「ケータイに電子マネーを振り込むのでそちらをお使い下さい。使い方が解らない場合はその他の説明に書いておきます」
「ケッ。解ったよもう消えろ」
向こうから通話は切られた。つまり、スタート。
「とりあえず店の前に車を止めてるから駅まで車でいきましょう」
3人は立ち上がり無言で階段を降りて行くが、僕は何か納得がいかない。暗くなったケータイ画面を見ながら、何が納得いかないのかを考える。
「優くん、先行って待ってるよ。遅れたからモヒカンの隣ね」
ケンジの声は耳には入ったが頭の中を素通りした。絶対何か変だ、おかしくもないけどこんな流暢に話しが進むものだろうか?
ケンジと彩子があの後相談して、すぐ来れる様にしていたら辻褄は合う。モヒカンはそれらしい動きにも見える、けどなんで何もトラブルが起きない? こんな大事に。
するとケータイ画面がパッと明るくなる。
バイブも音も鳴らずに着信。なんだ? 画面をタップするとボーカロイドが出た。
「時間がないから早く移動してよね。……いい事教えてあげようか?」
僕1人になるのを見計らっていたのか?
「何?」
「他のプレイヤーには渡辺様の口からは秘密だよ。スラッシャー、ヒーラー、どっちも不完全だよね?」
「どういう意味?」
「勝ち進めば全員解る事になるけど、特別に教えてあげる。それは」
『パーフェクトスラッシャー』
『パーフェクトヒーラー』
「完全に壊す、完全に救う。この二つがゲームの鍵で、このアプリの目的でもあるの」
「完全になんて無理だろ! なんで教える? なんで僕にだけ?」
ボーカロイドは小声で耳打ちする様な仕草をとる。
「後は内緒。じゃあね」
ざわつきが一本の線となり、確信する。
単なる金儲けだけのアプリじゃない。もっととんでもない大きな事をアプリは目指していて、僕達は加担させられている。
再び呼びに来たケンジに腕を引っ張られたまま、車に乗るが周りの音が全く聞こえない程にさっきの言葉の意味を考える。
パーフェクトヒーラー、パーフェクトスラッシャー……、完全にか。確かにスラッシャーとヒーラーは時間が経てば無くなってしまうか、薄れてしまう。
完全に、つまり一生その状態が続くという事でいいのか? そんなの出来るのか? それがアプリの目的?
「駅着いたよ、優くん! 優くん! 次新幹線!」
「ほっとけ茶髪ぅ、馬鹿になったんだろ」
「150m離れたら全員アウトだよ? いいの? モヒカンの馬鹿」
ケンジとモヒカンの喧嘩が見える、周りが全く見えてない状態だったか。
「ごめん、すぐ行く」
「ずーっと何考えてたの? 何聞いても親指噛んだまんま無視なんだもん」
彩子が腕にしがみついて、外に誘導してくれる。また異常に接近してくる彩子からは忘れそうになってたキツイお香の匂いがしてくる。
「考える優くんも素敵」
「おい茶髪ぅ、何だアレ」
「彩子の病気。あんまり近づくと蹴りが来るよ」
しまった、僕が四人をバラバラにしてどうするんだ。彩子の手を強引に引いて、2人の所へ急いで距離を縮める。
「行こう彩子、ごめん2人共。急ごう」
人混みに混ざると、全員ケータイの電子マネーで支払いを済ませてホームに入る。
「やっぱり、電子マネーで払えるのなら何でも買えるわ」
売店で四人分の弁当と飲み物をケンジに持たせて、彩子が頭を傾げて向かってくる。
「彩子、残高は? いくら入ってたの?」
モヒカンの周りだけ人が避けて通るので、一緒にいる僕が彩子に声をかけるとこっちまで目立つ。
「それが、表示されないの」
「そんなのどうでもいいだろ、新幹線が来たからさっさと乗るぞ。オラ、何見てやがる」
周りを威嚇しながらモヒカンは苛つきを見せて先に乗り込む。
「半分持ってよ! 優くん」
「もうすぐそこだ、あれ? 夜の分も買ったの?」
両手に、袋が重みで千切れそうになる程の袋を持つケンジの手が震えている。
「俺の昼飯、弁当2箱と3時のオヤツと弁当もう1つ」
「ほとんどケンジのだからやっぱり1人で持ってきてな」
ケンジを置いて指定席の彩子の隣に座る。モヒカンは反対側で1人で足を組んで外を見ている。
遅れてケンジが前の席に座ると、袋を重そうに隣に置いた。
「なんでまた俺1人なんだよ! モヒカンは1人がいいんだろうけど」
「黙れ茶髪ぅ、さっさと弁当と酒よこして静かにしてろ」
ケンジは、黙って弁当を取り缶ビール二本をモヒカンに渡すと、椅子を回転させて、四人席にする。
「いやにあっさりモヒカンに渡したな、大人な所あるじゃんケンジ」
ケンジはニヤニヤ笑うとモヒカンを指差した。
外を見ながら缶ビールを開けた瞬間、音を立てて大量の泡が吹き出してモヒカンの服にこぼれる。
それを見て黙って缶ビールを置くと、外をまた見始める。
やっぱりモヒカンも考え事があるのか。
「なんだ、つまんねえ」
ケンジはぷいと自分の弁当に目をやり、蓋を開けるといつもの調子で弁当を口にかきこむ。
彩子が溜息を大きくすると、同時にゆっくりモヒカンが立ち上がるのが見えた、ヤバイ。
彩子の手を引き立ち上がると少しその場から離れると、ケンジがその様子に気づく。
「ん? 2人共オシッコ? それより京都っていったら舞妓だよ、メガネ舞妓」
その後ろから、モヒカンはケンジの頭にビールをかける。
「なっ!」
驚いて振り返るケンジの胸ぐらを掴んでモヒカンは目で殺すと言わんばかりにケンジを睨む。
「次舐めた真似したら殺す、本当に殺す」
手を離すとモヒカンは先程の席に戻り外を眺めだした。
彩子と2人でまた大きく溜息をついて席に戻る。
「少しは懲りたか? ケンジ」
「ボケ、ナス、カス」
疲れた顔の僕と怒りの目の彩子を他所にケンジはぶつぶつ小声を出す。
「次はバレないようにする」
スピードに乗った新幹線はごうごうと音を立てて進む。彩子が眠るのを最初に僕も眠りにつく。
足をトントンと触られる気配で目が覚めるとアナウンスが、京都駅到着前を告げた。
「起こしてくれてありがとう、ケンジ寝てないのか?」
「うん、なんだかやっぱり緊張してて」
「彩子は?」
「少し前に起きたよ、今トイレに行ってる」
モヒカン……は、外見たまんまか。寝てるのか起きてるのか解らないな、ギリギリで声をかけるか。
「優くん、お目覚め?」
「うん、もう着くな」
新幹線は減速を始めだした。
『京都駅、京都駅』
モヒカンはそのアナウンスで立ち上がると、ドアに向かう。
僕らも無言でその後に続く。
さすがに人が多いな。改札を通り、外に出ると四人共ケータイを出す。アプリから着信が来るはずだからだ。
雪がかなり勢いをつけて降っているな、交通規制がつくんじゃないのか? するとすぐ、バイブが鳴りメールが来る。それを開くとやはりだ。
次のステージだろう住所が乗っている。
モヒカンは1人でタクシーに乗り込むのを見て、慌ててすぐ後ろのタクシーに3人で乗り込む、150m離れるとアウト。
「前の車に離れないようにピッタリついて行って下さい」
もう次の敵まで後少し。隣に座るケンジも前の彩子も口を開かない。次はこの3人最初から敵同士になる可能性も高いからか。
一時間半程走ると、やがてキャンプ場に着き灯りがついたコテージに着いた。
タクシーを降りて大きなコテージを見上げる。
ここが次のステージ? どんなやつが? 何人集まるんだ?
先頭を切り、僕がドアをゆっくり開けた。
「いらっしゃい」