心理戦の100万円アプリ
無敵論
おかしい、用意されすぎている。ちらほら矛盾がある様にも見える。
どこまではかは解らないが、アプリの目的に関係しているな。
勝つしかないのだが、どうやって勝てというんだ。
「ねえ、なんで人間は生きていると思う?」
シンママはガムを噛みながらこちら側に余裕そうな顔で問いかけてくる。きた、ここからのミスはすぐ負けに繋がるだろう。
「それを見つける為だ」
1番にモヒカンが即答する、できるだけ迷う仕草は見せたくないものだ。
こっちの3人のうち誰かが勝てればいいのだが……。
「俺もモヒカンとほぼ同じ、どうせそれも解ってて次に返す言葉も決まってるんでしょ?」
ケンジが、この程度の質問は話にならないと切り捨てる。
「話に矛盾が出たり、意見があれば加わるわ、モヒカンと2人で話を進めて頂戴」
彩子はモヒカンに託したか、ケンジと彩子はどこまで気づいているんだ?
「ふふ、では何故人は死んでいくと思うかね? お金がある私にも死は平等にくる」
茶色スーツが話しを深く掘り下げていくが、モヒカンは即答のリズムを崩さない。
「知るかよ、神様か宗教にでも聞け」
彩子は前回の「神」の論議で弱味を知られているかも知れない、ここは流れを変えて欲しい所だ。
「命については? 幅広い質問だけど。大抵ここで馬鹿はボロが出るんだ、アニメから学ぶ事も結構多いんだよ?」
アニメオタクは、攻撃の手を変える、ボロが出るというひっかけで動揺を誘っている。幅広い質問なだけに深く考えすぎての返答は、まだ早すぎる。
彩子がため息をついて、下手には一切出ず、バッサリと切り落とす。
「何で生きてるかと、命は何か? この段階では答え内容の意味は同じよ。つまらないひっかけなんかいらないからさっさと核心に入って頂戴」
向こうは、既にこの話題に慣れているかのような連係プレイ。
昨日会って話し合いをしたとしても、ここまでうまくまとまるものだろうか?
「そうだね、命についてなんて、人それぞれだもん。答えはないよ」
トランプを勝負には使えないだろうが、ケンジはトランプ遊びをしながら話しに加わる。
「その『それぞれ』ってやつ。世間一般のはもういい、それぞれなら1人1人の持論があるはずだよ。それを聞かせて欲しいね」
ジャージからハンカチを取り出し汗を拭きながらオタクは更に深く話を掘る。
「命にしては、自分が思う幸せの為に最善を尽くす事だ」
「同意」
「俺もモヒカンと同じ」
モヒカンの意見に、彩子、ケンジが合わせる。
ここからは出来るだけ3人の意見を固めておいたほうがいいからだろうな。
「OK、ではもう一度命について聞くわ。戦争で罪のない子供が撃ち殺される命、風邪を引いただけでニュースになる大統領の命についてはどう思うの?」
机の上に手を組み、シンママが仕掛ける。どんどん話しは深く掘り下げられていくな。
「残念だけど、命は平等ではないと思うね。与えられた時は平等でも産まれたら、環境、国。全然違うからね」
ケンジは少し過激に攻める。言い切ったのだから、悪くはないがこの後の展開にもよる。
モヒカン、彩子は黙り、流れを見守る。
「ウチは子供をこの歳で産んだ、幸せよ。平等でなくても、貧乏だけど幸せは誰にも負けない、つまりここにいる全員より私は幸せなの」
シンママが話しの核心にここで迫る。モヒカン、ケンジ、彩子の3人に一気にスラッシャーを仕掛けたのだ。
「もしかしたら、あなたより私の方が幸せかもしれないじゃない。決めつけるの?」
彩子がシンママをピンポイントで返し、メガネの奥の瞳を光らせる。
「そうよ、ハッキリと決めつけてるのよ、だってそうでしょ? 私の世界の事なんだから、私が一番幸せと思えば無敵なの」
「私だって金があって幸せだ。誰にも負けないね。そっちの世界では一切戦わないからな」
シンママに続き、金持ちスーツも同じ事を言い出す。やっぱりだ、3人共それを主張するだけで、絶対負けない。
「あんた心の貧乏人だよ、金、金って。全然幸せに見えないね」
金持ちスーツにケンジが噛み付く。
「なんとでもいってくれ。私は、私だけ満足していればいいんだ。絶対自分の幸せは覆えさない」
「僕は毎日アニメ、ネット、ゲーム三昧。幸せすぎるよ。なんでみんなやらないか不思議だね」
矛盾しまくってる、アニメオタクのこの理屈も。だが向こうの世界観で勝負する限りやはり無敵。
「あんたが生活する費用は? どうせ親でしょ? 社会からしたらクズよ」
彩子も矛盾を指摘していくが、多分同じ答えがくる。
「そうだよ、毎日やりたい事できて幸せだもん。迷惑かけてるけど関係ないね」
「パチン」とモヒカンが黙ったまま指を一回鳴らす、さっきから喋らなくなった。その指鳴らしは攻撃の合図か?
「解ったでしょ? 絶対にウチ達3人は負けないの、何を言ってきても無駄。人が思い込んでいる事を覆すことなんて不可能なのよ、ここまで意思が硬いのなら尚更」
「じゃあ、そっちの3人の内誰が1番幸せなのさ、それが矛盾してるよ」
シンママの絶望的に見えるさっきの無敵宣言にケンジは対抗する。
「ふふ、それを以前ネットでしてみたんだけど決着なんてつくわけないだろ。3人共自分が1番だと疑わないんだから」
茶色スーツは、待っていたかのように勝ち誇り、うすら笑いを浮かべる。
やっぱりこうなったか、3人共思考のレベルは圧倒的に低い。しかし、向こうの土俵なら勝つ事は不可能だ。
どうしようもない、彩子もケンジも理解した様だ。
何を言ってもはね返される、同じ答えばかりが永遠返ってくる、そしてネットからアプリはスカウトしたってところか。
ヤバイ、レベルはこっちの方が圧倒的に上なはずなのに。
「パチン、パチン」
指を二回鳴らすモヒカンは不気味な笑顔を作る。
この不条理な勝負にキレてしまったのか、怖い。全員がモヒカンの動作に釘ずけになる。
「お前達3人は、こっちの幸福論を聞くつもりはないんだな?」
「ないね、自分の主張さえしていれば負けないからね」
モヒカンは、笑顔でオタクの発言にうんうんと、頷く。
「シンママ、確かに俺は子供はいないし、それを知らないのは不幸かもしれない。知らない事は不幸かもしれないな」
「そうよ、あんた私より不幸よ」
モヒカンはまた、笑顔でうんうんと頷く。不気味すぎる。
「じゃあ、シンママはお金持ちじゃないから不幸なんだな? 茶色スーツはお金しか知らないから不幸なんだな? オタクは周りを知らないから不幸なんだな?」
車椅子の面屋は、初めてこの言葉に動揺してお茶を、少し零す。
「なんでそうなるんだよ? まぁ関係ないね。知らなくても問題ない、自分が1番幸せなのを疑わなかったらいいんだからな、こっちは」
「パチン、パチン、パチン」
指を3回、まさかモヒカン。勝てるのか!?
モヒカンは笑顔を一変させ、攻撃的に京都組を睨む。
「逃げたな? 確かにお前らの中では無敵かもしれない。だがそれを人に押し付ける事はつまり、相手の事を知らない。これでわかるか?」
「なんの事かサッパリよ」
シンママの顔が緊張で強張る、多分これがこの勝負が決まる場面だからだ。
「ふぃひひ、しっかり聞けよ。否定してやる。無敵、敵がいない。それをハートブレイクにもちこんだ事は負ける事が無くても、逆を言えば勝つ事もできない。こっちも幸せだと言い張れば勝負はつかないからな」
「それがなんだよ」
金持ちスーツは、理屈の説明に恐怖を覚えたのか声が大きくなる。
「初めから決着のつかない勝負。お前達はこっちの意見を聞かないと言うなら、こっちがどれだけ幸せなのかも証明できない。しかし今俺が勝つまではいかなくとも、引き分けには最低なる事を証明した。お前らは良くて引き分け。こっちは悪くて引き分け以上」
「パチン」
モヒカンは最後にもう一度指を鳴らした。
「つまり、判定勝ちさ。お前らの土俵で戦って引き分けなんだ、判定したらどっちが勝つ? 例えるとするなら、最高だと言い張る料理と俺は完璧なコピーの料理を作る。これで同じ、更に俺はデザートを付ける。お前ら全員否定、俺の1人勝ち」
どこまではかは解らないが、アプリの目的に関係しているな。
勝つしかないのだが、どうやって勝てというんだ。
「ねえ、なんで人間は生きていると思う?」
シンママはガムを噛みながらこちら側に余裕そうな顔で問いかけてくる。きた、ここからのミスはすぐ負けに繋がるだろう。
「それを見つける為だ」
1番にモヒカンが即答する、できるだけ迷う仕草は見せたくないものだ。
こっちの3人のうち誰かが勝てればいいのだが……。
「俺もモヒカンとほぼ同じ、どうせそれも解ってて次に返す言葉も決まってるんでしょ?」
ケンジが、この程度の質問は話にならないと切り捨てる。
「話に矛盾が出たり、意見があれば加わるわ、モヒカンと2人で話を進めて頂戴」
彩子はモヒカンに託したか、ケンジと彩子はどこまで気づいているんだ?
「ふふ、では何故人は死んでいくと思うかね? お金がある私にも死は平等にくる」
茶色スーツが話しを深く掘り下げていくが、モヒカンは即答のリズムを崩さない。
「知るかよ、神様か宗教にでも聞け」
彩子は前回の「神」の論議で弱味を知られているかも知れない、ここは流れを変えて欲しい所だ。
「命については? 幅広い質問だけど。大抵ここで馬鹿はボロが出るんだ、アニメから学ぶ事も結構多いんだよ?」
アニメオタクは、攻撃の手を変える、ボロが出るというひっかけで動揺を誘っている。幅広い質問なだけに深く考えすぎての返答は、まだ早すぎる。
彩子がため息をついて、下手には一切出ず、バッサリと切り落とす。
「何で生きてるかと、命は何か? この段階では答え内容の意味は同じよ。つまらないひっかけなんかいらないからさっさと核心に入って頂戴」
向こうは、既にこの話題に慣れているかのような連係プレイ。
昨日会って話し合いをしたとしても、ここまでうまくまとまるものだろうか?
「そうだね、命についてなんて、人それぞれだもん。答えはないよ」
トランプを勝負には使えないだろうが、ケンジはトランプ遊びをしながら話しに加わる。
「その『それぞれ』ってやつ。世間一般のはもういい、それぞれなら1人1人の持論があるはずだよ。それを聞かせて欲しいね」
ジャージからハンカチを取り出し汗を拭きながらオタクは更に深く話を掘る。
「命にしては、自分が思う幸せの為に最善を尽くす事だ」
「同意」
「俺もモヒカンと同じ」
モヒカンの意見に、彩子、ケンジが合わせる。
ここからは出来るだけ3人の意見を固めておいたほうがいいからだろうな。
「OK、ではもう一度命について聞くわ。戦争で罪のない子供が撃ち殺される命、風邪を引いただけでニュースになる大統領の命についてはどう思うの?」
机の上に手を組み、シンママが仕掛ける。どんどん話しは深く掘り下げられていくな。
「残念だけど、命は平等ではないと思うね。与えられた時は平等でも産まれたら、環境、国。全然違うからね」
ケンジは少し過激に攻める。言い切ったのだから、悪くはないがこの後の展開にもよる。
モヒカン、彩子は黙り、流れを見守る。
「ウチは子供をこの歳で産んだ、幸せよ。平等でなくても、貧乏だけど幸せは誰にも負けない、つまりここにいる全員より私は幸せなの」
シンママが話しの核心にここで迫る。モヒカン、ケンジ、彩子の3人に一気にスラッシャーを仕掛けたのだ。
「もしかしたら、あなたより私の方が幸せかもしれないじゃない。決めつけるの?」
彩子がシンママをピンポイントで返し、メガネの奥の瞳を光らせる。
「そうよ、ハッキリと決めつけてるのよ、だってそうでしょ? 私の世界の事なんだから、私が一番幸せと思えば無敵なの」
「私だって金があって幸せだ。誰にも負けないね。そっちの世界では一切戦わないからな」
シンママに続き、金持ちスーツも同じ事を言い出す。やっぱりだ、3人共それを主張するだけで、絶対負けない。
「あんた心の貧乏人だよ、金、金って。全然幸せに見えないね」
金持ちスーツにケンジが噛み付く。
「なんとでもいってくれ。私は、私だけ満足していればいいんだ。絶対自分の幸せは覆えさない」
「僕は毎日アニメ、ネット、ゲーム三昧。幸せすぎるよ。なんでみんなやらないか不思議だね」
矛盾しまくってる、アニメオタクのこの理屈も。だが向こうの世界観で勝負する限りやはり無敵。
「あんたが生活する費用は? どうせ親でしょ? 社会からしたらクズよ」
彩子も矛盾を指摘していくが、多分同じ答えがくる。
「そうだよ、毎日やりたい事できて幸せだもん。迷惑かけてるけど関係ないね」
「パチン」とモヒカンが黙ったまま指を一回鳴らす、さっきから喋らなくなった。その指鳴らしは攻撃の合図か?
「解ったでしょ? 絶対にウチ達3人は負けないの、何を言ってきても無駄。人が思い込んでいる事を覆すことなんて不可能なのよ、ここまで意思が硬いのなら尚更」
「じゃあ、そっちの3人の内誰が1番幸せなのさ、それが矛盾してるよ」
シンママの絶望的に見えるさっきの無敵宣言にケンジは対抗する。
「ふふ、それを以前ネットでしてみたんだけど決着なんてつくわけないだろ。3人共自分が1番だと疑わないんだから」
茶色スーツは、待っていたかのように勝ち誇り、うすら笑いを浮かべる。
やっぱりこうなったか、3人共思考のレベルは圧倒的に低い。しかし、向こうの土俵なら勝つ事は不可能だ。
どうしようもない、彩子もケンジも理解した様だ。
何を言ってもはね返される、同じ答えばかりが永遠返ってくる、そしてネットからアプリはスカウトしたってところか。
ヤバイ、レベルはこっちの方が圧倒的に上なはずなのに。
「パチン、パチン」
指を二回鳴らすモヒカンは不気味な笑顔を作る。
この不条理な勝負にキレてしまったのか、怖い。全員がモヒカンの動作に釘ずけになる。
「お前達3人は、こっちの幸福論を聞くつもりはないんだな?」
「ないね、自分の主張さえしていれば負けないからね」
モヒカンは、笑顔でオタクの発言にうんうんと、頷く。
「シンママ、確かに俺は子供はいないし、それを知らないのは不幸かもしれない。知らない事は不幸かもしれないな」
「そうよ、あんた私より不幸よ」
モヒカンはまた、笑顔でうんうんと頷く。不気味すぎる。
「じゃあ、シンママはお金持ちじゃないから不幸なんだな? 茶色スーツはお金しか知らないから不幸なんだな? オタクは周りを知らないから不幸なんだな?」
車椅子の面屋は、初めてこの言葉に動揺してお茶を、少し零す。
「なんでそうなるんだよ? まぁ関係ないね。知らなくても問題ない、自分が1番幸せなのを疑わなかったらいいんだからな、こっちは」
「パチン、パチン、パチン」
指を3回、まさかモヒカン。勝てるのか!?
モヒカンは笑顔を一変させ、攻撃的に京都組を睨む。
「逃げたな? 確かにお前らの中では無敵かもしれない。だがそれを人に押し付ける事はつまり、相手の事を知らない。これでわかるか?」
「なんの事かサッパリよ」
シンママの顔が緊張で強張る、多分これがこの勝負が決まる場面だからだ。
「ふぃひひ、しっかり聞けよ。否定してやる。無敵、敵がいない。それをハートブレイクにもちこんだ事は負ける事が無くても、逆を言えば勝つ事もできない。こっちも幸せだと言い張れば勝負はつかないからな」
「それがなんだよ」
金持ちスーツは、理屈の説明に恐怖を覚えたのか声が大きくなる。
「初めから決着のつかない勝負。お前達はこっちの意見を聞かないと言うなら、こっちがどれだけ幸せなのかも証明できない。しかし今俺が勝つまではいかなくとも、引き分けには最低なる事を証明した。お前らは良くて引き分け。こっちは悪くて引き分け以上」
「パチン」
モヒカンは最後にもう一度指を鳴らした。
「つまり、判定勝ちさ。お前らの土俵で戦って引き分けなんだ、判定したらどっちが勝つ? 例えるとするなら、最高だと言い張る料理と俺は完璧なコピーの料理を作る。これで同じ、更に俺はデザートを付ける。お前ら全員否定、俺の1人勝ち」