心理戦の100万円アプリ
しかし上手くいけばマイナスどころか儲けられるんじゃないのか?
ヒーラーの役に立つ心理学を探すがすぐ実演できそうなものはなかった。
自分でやるしかない。深呼吸をしてアプリを開き慎重に相手の顔を見て行く。「人は顔で判断するな」という言葉の裏返しは、ほとんど顔で判断できるともとれるからだ。
今度はおばさんにしてみるか。沢山宝石をつけているし、42歳金持ちの悩みなんかたいした事はないはずだ。
相談内容は、「死」
こいつもか、案外死にたがりは多いんだな。チャットに入ると早速書き込んでくる。
「死んだらどうなるの? こんなに成功してお金はあるのにいつか死んでしまうと思うと不安で不安で仕方ない!」
「死ぬのは誰にも平等ですよ、だからそれまでにできるだけ楽しむんじゃないですか」
「そうだけど怖さがとれないの。先月母が死んでからずっと寝れない、地獄に私は行くような気がする」
なんだコイツ……。母の事で悲しまないのか? 自己中心的だ、地獄にいくかもしれないというのは自己の罪悪感に悩んでる証拠。
「職業を聞いてもいいですか? そして何故地獄に行くと思いますか?」
「詐欺でここまで儲けてきたわ。騙すだけ騙して人を不幸にしてきた。マルチ商法の上層部なの」
マルチ商法……。上層部なんかあるのか、しかもこんなおばさんが。
眉間に力を入れ思い出す。唯一仲の良かった親友はマルチ商法に引っ掛かって金も何もかも奪われて自殺した。とてもコイツをヒーラーなんてする気になれない。
「どんなマルチ商法でしょうか?」
「骨壷を扱うマルチよ」
脳みそをミキサーにかけられた様に怒りが衝撃となり指を震わせる。
友達のしていたマルチ商法だからだ……。
(スラッシャーしてやる!)
目を細め、文章に感情が出ない様に冷静さを装う。
「大丈夫です、僕が救ってみせます」
「本当!? どうしたらいいの?」
「一つ約束してください。僕を信用すると」
「約束する! もう信じ頼ってるから! 他にいないの!」
これで簡単なマイインドコントロール。
「家族はいますか?」
「私は独身だけど父親が残っている
の。今も毎月送金して大事にしているわ」
馬鹿め、簡単に自分の大事なものを打ち明けるなんて。でもまだまだ引き出せないとスラッシャーはできない。
ヒーラーを装いながら話しかけて行く。
「幼少期の親との楽しかった思い出や、何を愛しているか教えて下さい」
「親はよくキャンプに連れていってくれたわ、貧乏で何も無かったけど暖かい家庭だった。愛情は親くらいしかないわ、その貧乏生活からお金儲けを考えたの」
……その文章を軽蔑の視線で見下す。
スラッシャーを始める。
「もし父親があなたのしている事を知ったらどう思いますか?」
「考えたくないわ、ばれないもの」
「当然、愕然とするでしょうね。結論からいいます地獄には行きません」
「ほんと!?」
「本当です。ただし僕が知ってるいる知識内容だと、あなたは永遠の暗闇に1人きりという地獄より重い世界に落とされるでしょうね。愛ってなんだか解りますか?」
女は少し動揺した様子の内容で少し間を空けて返信をしてくる。
「愛……。よくわからない、父親には感じる」
「それです。まず生まれてから人間は最初に親に愛情を貰い覚えます。ですがお金儲けに走り他人を不幸にしてきた、それだけでハッキリ言って終わりですよ。逆にいい所へいけるとでも思えますか?」
「愛情なんてすぐ見つかるじゃない! 私は幸せで自ら選んで独身なだけよ!」
独身なんか聞いてない。かなり興奮してきたな、これが黙った時が……。
「選んだのは、選んだのでしょうが、気付かなかったんですか? あなたは誰からも愛されていなかったんですよ」
「そんなの誰だって独身はそうじゃない! そんな人間沢山いるわ!」
「いいえ、いません。本当のあなたを知って愛してくれる人がいるでしょうか? みんな“軽蔑”するでしょうね。本当の自分は知られたら愛されるべき要素が出てきます。しかしあなたはありません」
「そんなの……そんなの」
もう大分スラッシャーしてきたな、決定的に壊してやる。
「賭けてもいいですよ、100人に本当のあなたのやってきた事を話して愛してくれる人なんていやしない」
「違う……違う……」
「まだ解りませんか? あなたに生きていて欲しい人間なんていないんですよ。試しに愛情がある父親に話してみて下さい。嫌われたらこの世界であなたはそれでたった1人きりになるんですから。早く死んで下さい」
するとチャットがプツンと切れる。
「……スラッシャー成功」
特殊な優越感から声が漏れ出した。この味わった事のない感覚は、差し伸べる悪魔の手に応えてしまったシーンを思い描かせたが、罪悪感はそこには無かった。
するとスラッシャー成功35ポイント加算された。よし大分儲けた、コツも掴んできたぞ。初日でこれだから一週間あれば大金が稼げる。
するとアプリからメールではなく、電話がかかってきた。嫌な予感しかしない……。先程の興奮の熱が一気に冷め、指先に冬の温度を感じながら、通話ボタンを押しゆっくりと耳にケータイを持って行く。
瞬間、大音量で音楽が流れて慌てて耳から離し、スピーカーにする。
ボーカロイドが画面の中で踊りながら音楽と共に喋り出す。
「おめでとうございます! 50ポイント以上稼いだ事。ヒーラー、スラッシャーどちらも課題クリアとなりました。これでチャットでのゲームが終わり、ゲームの内容を面白くしまーす! 明日プレイヤーが30人揃い次第連絡をさせて頂きます。それまでゆっくりお休み下さいませ」
「あ……!」
心臓は鼓動を速めたまま、反論する間もなく切られた。今30人もプレイヤーがいると言っていた。ゲームの内容を変えるとかも。そうか、簡単に儲けさすはずないもんな。
きっとチャット相手の悩みが大きいとかになるんだろう。他にこのアプリをしている人間が30人もいるのか?
布団に入るが次のゲームというのが不安になり、もやもやと胃にハエが入り込んだ様に騒ついた緊張感が取れない。
寝るのを諦め、ノートパソコンにアプリの詐欺について調べるが数が多く今の状況に近いのを探している内にまた、不意打ち気味のタイミングで電話が鳴る。
目を閉じて、限界まで息を止める。心臓の音が聞こえてきて鼓動が収まっていくのを確認する。目を開け大きくまた息を吸い、電話に出た。
自分の殺伐とした空気とは逆に明るくボーカロイド声が喋る。
「おはようございます、現時点で30名のプレイヤーが出揃いました。新しいゲームの内容を説明するからよく聞いてね! 次のフィールドは渡辺様がお住まいの区が全てフィールドになります。30人全てその区内に密集しております。プレイヤー同士が近づくとケータイがバイブレーションをして教えてくれます。心理戦の枠ならルール無用となっております。ちゃんと聞いてるかな?」
画面で踊るボーカロイドに戦慄が走る。このボーカロイド、完全に狂ってる……! 何を説明しているんだ、ケータイの中の世界の事か? 必死に理解しながら、なんとか声を出す。
「は、はい」
「例えば議論を論破してもスラッシャーと扱います。プレイヤー同士のバトルは、ポイントが大きく動くので注意して下さい。そしてプレイヤー同士が『ハートブレイク』と言い合えば、バトルが始まります」
「ハートブレイク?」
するとボーカロイドは踊るのを止め、真顔になる。
「うるせぇな。毎回毎回、最後までまず聞けよ」
「え?」
何が起こったか理解する前に、ボーカロイドは笑顔になると続きがまた始まる。
「マイナスポイントが200になるとゲームオーバーとなります。マイナスならば必ず100万円以上のペナルティ。制限は3日。その時にプラスマイナス0以上であればクリアです。詳しい時間と内容はアプリ内で説明があります。何かご質問はありますか?」
「現実とアプリの中の出来事どっちなんだ? 区ってここの区全部か? めちゃくちゃ広いじゃないか!」
「現実です。ですのでバイブレーション機能をつけました。プレイヤーが近づく度につれ大きくケータイがバイブレーションします。質問等はメールでお願いします。では……、これより開始です」
また唐突に切られた。すると画面に36時間からのカウントダウンが始まっている。
ヤバイ、この広い規模でこのアプリは本気だ。いつも使っているケータイがいつ爆発するか解らない時限爆弾に見える……、恐る恐る手にとると頭に何かのスイッチが入る。
じっとして、事態が悪化する前に何かしなければ。急いでダウンを着て財布と携帯充電器を持ち夜中のコンビニに行く。
とにかく何があるかわからない。僕はATMで貯金を全て下ろす。
ちんたら歩いてる時間はない。
道路に走って行くと、手を上げて急いでタクシーを捕まえる。
そして『現実』へと動き出した。
ヒーラーの役に立つ心理学を探すがすぐ実演できそうなものはなかった。
自分でやるしかない。深呼吸をしてアプリを開き慎重に相手の顔を見て行く。「人は顔で判断するな」という言葉の裏返しは、ほとんど顔で判断できるともとれるからだ。
今度はおばさんにしてみるか。沢山宝石をつけているし、42歳金持ちの悩みなんかたいした事はないはずだ。
相談内容は、「死」
こいつもか、案外死にたがりは多いんだな。チャットに入ると早速書き込んでくる。
「死んだらどうなるの? こんなに成功してお金はあるのにいつか死んでしまうと思うと不安で不安で仕方ない!」
「死ぬのは誰にも平等ですよ、だからそれまでにできるだけ楽しむんじゃないですか」
「そうだけど怖さがとれないの。先月母が死んでからずっと寝れない、地獄に私は行くような気がする」
なんだコイツ……。母の事で悲しまないのか? 自己中心的だ、地獄にいくかもしれないというのは自己の罪悪感に悩んでる証拠。
「職業を聞いてもいいですか? そして何故地獄に行くと思いますか?」
「詐欺でここまで儲けてきたわ。騙すだけ騙して人を不幸にしてきた。マルチ商法の上層部なの」
マルチ商法……。上層部なんかあるのか、しかもこんなおばさんが。
眉間に力を入れ思い出す。唯一仲の良かった親友はマルチ商法に引っ掛かって金も何もかも奪われて自殺した。とてもコイツをヒーラーなんてする気になれない。
「どんなマルチ商法でしょうか?」
「骨壷を扱うマルチよ」
脳みそをミキサーにかけられた様に怒りが衝撃となり指を震わせる。
友達のしていたマルチ商法だからだ……。
(スラッシャーしてやる!)
目を細め、文章に感情が出ない様に冷静さを装う。
「大丈夫です、僕が救ってみせます」
「本当!? どうしたらいいの?」
「一つ約束してください。僕を信用すると」
「約束する! もう信じ頼ってるから! 他にいないの!」
これで簡単なマイインドコントロール。
「家族はいますか?」
「私は独身だけど父親が残っている
の。今も毎月送金して大事にしているわ」
馬鹿め、簡単に自分の大事なものを打ち明けるなんて。でもまだまだ引き出せないとスラッシャーはできない。
ヒーラーを装いながら話しかけて行く。
「幼少期の親との楽しかった思い出や、何を愛しているか教えて下さい」
「親はよくキャンプに連れていってくれたわ、貧乏で何も無かったけど暖かい家庭だった。愛情は親くらいしかないわ、その貧乏生活からお金儲けを考えたの」
……その文章を軽蔑の視線で見下す。
スラッシャーを始める。
「もし父親があなたのしている事を知ったらどう思いますか?」
「考えたくないわ、ばれないもの」
「当然、愕然とするでしょうね。結論からいいます地獄には行きません」
「ほんと!?」
「本当です。ただし僕が知ってるいる知識内容だと、あなたは永遠の暗闇に1人きりという地獄より重い世界に落とされるでしょうね。愛ってなんだか解りますか?」
女は少し動揺した様子の内容で少し間を空けて返信をしてくる。
「愛……。よくわからない、父親には感じる」
「それです。まず生まれてから人間は最初に親に愛情を貰い覚えます。ですがお金儲けに走り他人を不幸にしてきた、それだけでハッキリ言って終わりですよ。逆にいい所へいけるとでも思えますか?」
「愛情なんてすぐ見つかるじゃない! 私は幸せで自ら選んで独身なだけよ!」
独身なんか聞いてない。かなり興奮してきたな、これが黙った時が……。
「選んだのは、選んだのでしょうが、気付かなかったんですか? あなたは誰からも愛されていなかったんですよ」
「そんなの誰だって独身はそうじゃない! そんな人間沢山いるわ!」
「いいえ、いません。本当のあなたを知って愛してくれる人がいるでしょうか? みんな“軽蔑”するでしょうね。本当の自分は知られたら愛されるべき要素が出てきます。しかしあなたはありません」
「そんなの……そんなの」
もう大分スラッシャーしてきたな、決定的に壊してやる。
「賭けてもいいですよ、100人に本当のあなたのやってきた事を話して愛してくれる人なんていやしない」
「違う……違う……」
「まだ解りませんか? あなたに生きていて欲しい人間なんていないんですよ。試しに愛情がある父親に話してみて下さい。嫌われたらこの世界であなたはそれでたった1人きりになるんですから。早く死んで下さい」
するとチャットがプツンと切れる。
「……スラッシャー成功」
特殊な優越感から声が漏れ出した。この味わった事のない感覚は、差し伸べる悪魔の手に応えてしまったシーンを思い描かせたが、罪悪感はそこには無かった。
するとスラッシャー成功35ポイント加算された。よし大分儲けた、コツも掴んできたぞ。初日でこれだから一週間あれば大金が稼げる。
するとアプリからメールではなく、電話がかかってきた。嫌な予感しかしない……。先程の興奮の熱が一気に冷め、指先に冬の温度を感じながら、通話ボタンを押しゆっくりと耳にケータイを持って行く。
瞬間、大音量で音楽が流れて慌てて耳から離し、スピーカーにする。
ボーカロイドが画面の中で踊りながら音楽と共に喋り出す。
「おめでとうございます! 50ポイント以上稼いだ事。ヒーラー、スラッシャーどちらも課題クリアとなりました。これでチャットでのゲームが終わり、ゲームの内容を面白くしまーす! 明日プレイヤーが30人揃い次第連絡をさせて頂きます。それまでゆっくりお休み下さいませ」
「あ……!」
心臓は鼓動を速めたまま、反論する間もなく切られた。今30人もプレイヤーがいると言っていた。ゲームの内容を変えるとかも。そうか、簡単に儲けさすはずないもんな。
きっとチャット相手の悩みが大きいとかになるんだろう。他にこのアプリをしている人間が30人もいるのか?
布団に入るが次のゲームというのが不安になり、もやもやと胃にハエが入り込んだ様に騒ついた緊張感が取れない。
寝るのを諦め、ノートパソコンにアプリの詐欺について調べるが数が多く今の状況に近いのを探している内にまた、不意打ち気味のタイミングで電話が鳴る。
目を閉じて、限界まで息を止める。心臓の音が聞こえてきて鼓動が収まっていくのを確認する。目を開け大きくまた息を吸い、電話に出た。
自分の殺伐とした空気とは逆に明るくボーカロイド声が喋る。
「おはようございます、現時点で30名のプレイヤーが出揃いました。新しいゲームの内容を説明するからよく聞いてね! 次のフィールドは渡辺様がお住まいの区が全てフィールドになります。30人全てその区内に密集しております。プレイヤー同士が近づくとケータイがバイブレーションをして教えてくれます。心理戦の枠ならルール無用となっております。ちゃんと聞いてるかな?」
画面で踊るボーカロイドに戦慄が走る。このボーカロイド、完全に狂ってる……! 何を説明しているんだ、ケータイの中の世界の事か? 必死に理解しながら、なんとか声を出す。
「は、はい」
「例えば議論を論破してもスラッシャーと扱います。プレイヤー同士のバトルは、ポイントが大きく動くので注意して下さい。そしてプレイヤー同士が『ハートブレイク』と言い合えば、バトルが始まります」
「ハートブレイク?」
するとボーカロイドは踊るのを止め、真顔になる。
「うるせぇな。毎回毎回、最後までまず聞けよ」
「え?」
何が起こったか理解する前に、ボーカロイドは笑顔になると続きがまた始まる。
「マイナスポイントが200になるとゲームオーバーとなります。マイナスならば必ず100万円以上のペナルティ。制限は3日。その時にプラスマイナス0以上であればクリアです。詳しい時間と内容はアプリ内で説明があります。何かご質問はありますか?」
「現実とアプリの中の出来事どっちなんだ? 区ってここの区全部か? めちゃくちゃ広いじゃないか!」
「現実です。ですのでバイブレーション機能をつけました。プレイヤーが近づく度につれ大きくケータイがバイブレーションします。質問等はメールでお願いします。では……、これより開始です」
また唐突に切られた。すると画面に36時間からのカウントダウンが始まっている。
ヤバイ、この広い規模でこのアプリは本気だ。いつも使っているケータイがいつ爆発するか解らない時限爆弾に見える……、恐る恐る手にとると頭に何かのスイッチが入る。
じっとして、事態が悪化する前に何かしなければ。急いでダウンを着て財布と携帯充電器を持ち夜中のコンビニに行く。
とにかく何があるかわからない。僕はATMで貯金を全て下ろす。
ちんたら歩いてる時間はない。
道路に走って行くと、手を上げて急いでタクシーを捕まえる。
そして『現実』へと動き出した。