心理戦の100万円アプリ
深海に溶ける球体
「それでは私から」
「イヴの谷口さん、誰とするの? 全員?」
マイクをしまうと、彩子の目を見てニヤつく女子大生の谷口、何を狙っているんだ?
「彩子さん、私は全員相手でも大丈夫。好きに参加してもらっていいですよ」
「なら、私がやるわ」
モヒカンはタバコを吸いながら参加する様子はない、勿論ケンジも。
「渡辺さんは1度やった話題だけど、イジメについて語りたいなー。彩子さんは無くすにはどうする?」
前回ポマード男とは違う、下手な芝居は逆効果だな。
「イジメはなくならないわ、単なる見た目や言動が問題になっている訳ではないじゃない」
全員が注目する中、2人のハートブレイクが始まった。しかし気になる、ゴスロリが彩子を瞬きもせず見つめて何もない空間に指を動かし始めた。
「なら彩子さんは何が問題だっていうの?」
谷口という女はニヤつく口元を隠す様にマスクを再びつける。
「遺伝子の問題よ」
「遺伝子? どういう事?」
僕はまだ入る余地はないな、いいペースだ。
「あなたも年頃なら、男性の好みくらいあるわよね?」
「それは当然誰でもあるわよ」
遺伝子のワードでは考えた事がないのが証明されている、ここでイジメに直結させる理屈を繋げれたら向こうは認めるしかない。彩子も他もゴスロリの動きに気づいているが、何か他の動きがあるまで気にしていてはダメだ。
「遺伝子が求める異性が、タイプと置き換えるのは簡単ね? 逆もまた簡単に」
「それがどういう事になるの?」
「イジメは例えば障がいがあるだけで、理由はあるわ。見た目、言動も含め」
「なるほどね、好き嫌いは必ずある。それから自分にふさわしくない者をはじき出して有能な子孫を残すための当たり前の事から繋がっているのね」
おかしい、理解力もあるしトントン話しが進む。自分からそれを認めて助長している。
「谷口さんはどーやったらイジメはなくなると思うの?」
「無理だと思ったから、聞いてみたかったんだ。イジメられる側の責任、現代の社会問題と来ると思ってたのに一種のいきなり極論きちゃった。何言ってもその遺伝子からのを論破しないと勝てないなー」
ここからが本番か。生命や、心や神学の話しになるな。
大学生の谷口は上を向いてふぅと溜息をつくと、マスクを外してゴスロリをチラリと見ると指を動かすのを止めたのを確認した。
「やっぱり強いなあ、彩子さんでこのレベルだもんなあ。普通イジメで遺伝子レベルから考えないよ。無理、勝てない。私の負け」
『は?』
彩子と声がかぶる、今負けを認めたのか?
もう? これからじゃないのか?
「ハートブレイクは好きだけど、得意じゃないんだよね。ただ純粋にイジメがなくなればいいって思ってただけだしね」
アッサリすぎる、ほぼ何もしていない。遺伝子の事でレベルが高いと見分けがつくならこの速さも解るが、理解できているならまだいくらでも戦える筈だ。
『はい、次は武士の池本さんー!』
え、本当に終わったのか? この女子大生はこれで終わり?
「では、いいかな?」
顔を上げた池本がキリリとした口調で話しをどんどん進めるのを見たモヒカンはタバコの火を乱暴に消す。
「待て、何企んでる。そのゴスロリだよ! 話しはそれならだろうが」
「いや、別にないんですよ。ただゲームとしては団体戦みたいなもんですし、勝てると思ったら行きますよ。逆ならすぐ引きます、ゴスロリのナオさんはこれしか出来ないですし」
「チッ、この武士は俺がやる、何企んでるのかを暴くのがこの勝負のポイントだろーしな」
身を乗り出して、モヒカンは武士の池本に圧力をかける。
「では、私の道場にある小学生の弟子がいたのですが片足が義足だったんです。ある日私に聞きました、片足がないと強くなれないんですか? あなたならどう答えますか?」
「実際の話しだろ? 先にあんたはなんて言ったのか教えろよ」
池本は目を閉じ、少しトーンを落としてゆっくり喋る。同時にモヒカンに向かいまた指を動かすゴスロリ。
「その子には自信がない様に見えた、だから私の道場に来たのだと思います、隻腕の空手家もいます。人の3倍努力して、足をあまり使わない戦い方を考えてひたすら基礎を練習させました。何か一つ自信を持たせる事を与えるのが私の使命と考えたからです」
再びチッと舌打ちをしたモヒカンは不機嫌そうに唇をとんがらせる。
「やっぱり引っ掛けじゃねえか、情報がないと答えようもない」
「その引っ掛けを見事クリアです、そしてそれを聞いてどう思われますか?」
「正しい正解なんてないだろ、そのお前の判断も非の打ち所がない様に見える。こんな物は議論する事ではない、しかしハートブレイクにおいて決着を求めるのなら、俺も同じ事をしたって言うぜ。頭の良し悪しではなく、それは正しいか正しくないかだろ」
「感服です、いい指導者になれますよモヒカンさん。私の負けです」
「あぁ!?」
またゴスロリの指が動かなくなってからだ、それだけで他の時間は目も合わせようともしない。
『はい、2人目のクリアです! 凄い快進撃ですねえ』
もうこれは完全に何かの作戦、こんなに弱い筈がない。
「次はもう私の番ですか、ほっほ。まだ30分も経っていない。強いですねえ」
「どうせあんたも負けるつもりだろ、俺が相手するからさっさと終わらせようよ。トランプも必要ない」
モヒカンがイライラ貧乏ゆすりをする隣のケンジも不機嫌そうな感情を全面に顔に出す。ここまで来たらあのゴスロリしか気にならない、またケンジに向かって指を走らせる。
「パーフェクトヒーラー、パーフェクトスラッシャーはもう聞きましたかな?」
「なんかそれが目的とか言ってたな」
老人紳士の丸山は髭を摩り、丸い眼鏡から初めて真剣な目つきを見せた。
「あなた達がそれが出来る可能性があるかどうかを確認するためだけに来たんですよ、この次のナオさんは凄い事が起こる。それを乗り越えたらいいだけの話し。私を含め他の3人も負けるだけとはいえこの段取りが必要だったんですよ」
「じゃあもう何もしてないけど、負けてみてよ」
「ほっほ。解りました、私の負けです」
『なんと三連勝〜! 強いつよ〜い!』
ケンジは机を音をたてて叩く。
「もうイヴとかいいからさ! 次のゴスロリでさっさと終わりにしろよ!」
無言で最後にハートブレイクをしていない僕に今度は同じ事をしてくるゴスロリ。
それが2分程続いたが、この儀式が終わらないと次に行かないつもりだろうし。黙って待つしかない。
「丸山さん、終わりました」
また下を向いてポツリとギリギリ聞き取れる音量で申し訳なさそうに指を止めた。
「ナオさん今日は速いですねぇ。申し訳ないのですが、ここで一旦勝負を止めます、準備が出来次第お呼びしますので各自ゆっくりして下さい」
「準備って? ゴスロリが今何かやってる事? ハートブレイクになってないじゃないか」
「渡辺さん、私達はピープルといったはずですよ、やり方も色々です。女子大生の谷口さんと武道家の池本さんはここでコテージから出てもらいます、やる事があるので」
立ち上がった2人は僕らに頭を下げて雪が降る外へとそそくさと出ていった。
ゴスロリは二階に上がって行く。
なんだこの流れ。不気味でしかない、もう犯罪か何かに巻き込まれてるのか?
「なんで丸山さんだけ残るの?」
「お茶を入れながら少しお話ししたかったんです」
ケンジとモヒカンにはビールが出され、彩子と僕にはお茶が出された。
「いかにも私が本当の黒幕です、会社を何個か持っていましてその内のアプリ制作会社にこのアプリを作らせたんです」
「金儲け?」
ケンジは軽蔑の目でビールの口を開ける。
「金儲けではないんです、実際大赤字なんですよ。例えばケンジさんのために作ったと言っても過言ではないんですよ」
「人助けのつもりだってのか? もう何人狂わしたか解ってんのか?」
一気に飲み干したビール缶をモヒカンは強く握りつぶす。
「パーフェクトスラッシャー、パーフェクトヒーラーについては?」
彩子は眼鏡を吹きながら老人紳士をじっと見つめる。
「ここまでですね、それよりこの後の事を乗り越えたらすぐ解りますよ。雪も落ち着いてきたみたいですね、私は失礼ですがナオさんの部屋でお手伝いしてきます。時間がかかると思うのでゆっくりくつろいで下さい」
ニコリと悪意のない笑顔を作ると、老人紳士は二階へと上がった。
「何かもう結論出そうとしてるのね、もうハートブレイク関係ないんじゃない?」
彩子は老人紳士に目をやりながら最後の一口を飲み干した。
「イヴの谷口さん、誰とするの? 全員?」
マイクをしまうと、彩子の目を見てニヤつく女子大生の谷口、何を狙っているんだ?
「彩子さん、私は全員相手でも大丈夫。好きに参加してもらっていいですよ」
「なら、私がやるわ」
モヒカンはタバコを吸いながら参加する様子はない、勿論ケンジも。
「渡辺さんは1度やった話題だけど、イジメについて語りたいなー。彩子さんは無くすにはどうする?」
前回ポマード男とは違う、下手な芝居は逆効果だな。
「イジメはなくならないわ、単なる見た目や言動が問題になっている訳ではないじゃない」
全員が注目する中、2人のハートブレイクが始まった。しかし気になる、ゴスロリが彩子を瞬きもせず見つめて何もない空間に指を動かし始めた。
「なら彩子さんは何が問題だっていうの?」
谷口という女はニヤつく口元を隠す様にマスクを再びつける。
「遺伝子の問題よ」
「遺伝子? どういう事?」
僕はまだ入る余地はないな、いいペースだ。
「あなたも年頃なら、男性の好みくらいあるわよね?」
「それは当然誰でもあるわよ」
遺伝子のワードでは考えた事がないのが証明されている、ここでイジメに直結させる理屈を繋げれたら向こうは認めるしかない。彩子も他もゴスロリの動きに気づいているが、何か他の動きがあるまで気にしていてはダメだ。
「遺伝子が求める異性が、タイプと置き換えるのは簡単ね? 逆もまた簡単に」
「それがどういう事になるの?」
「イジメは例えば障がいがあるだけで、理由はあるわ。見た目、言動も含め」
「なるほどね、好き嫌いは必ずある。それから自分にふさわしくない者をはじき出して有能な子孫を残すための当たり前の事から繋がっているのね」
おかしい、理解力もあるしトントン話しが進む。自分からそれを認めて助長している。
「谷口さんはどーやったらイジメはなくなると思うの?」
「無理だと思ったから、聞いてみたかったんだ。イジメられる側の責任、現代の社会問題と来ると思ってたのに一種のいきなり極論きちゃった。何言ってもその遺伝子からのを論破しないと勝てないなー」
ここからが本番か。生命や、心や神学の話しになるな。
大学生の谷口は上を向いてふぅと溜息をつくと、マスクを外してゴスロリをチラリと見ると指を動かすのを止めたのを確認した。
「やっぱり強いなあ、彩子さんでこのレベルだもんなあ。普通イジメで遺伝子レベルから考えないよ。無理、勝てない。私の負け」
『は?』
彩子と声がかぶる、今負けを認めたのか?
もう? これからじゃないのか?
「ハートブレイクは好きだけど、得意じゃないんだよね。ただ純粋にイジメがなくなればいいって思ってただけだしね」
アッサリすぎる、ほぼ何もしていない。遺伝子の事でレベルが高いと見分けがつくならこの速さも解るが、理解できているならまだいくらでも戦える筈だ。
『はい、次は武士の池本さんー!』
え、本当に終わったのか? この女子大生はこれで終わり?
「では、いいかな?」
顔を上げた池本がキリリとした口調で話しをどんどん進めるのを見たモヒカンはタバコの火を乱暴に消す。
「待て、何企んでる。そのゴスロリだよ! 話しはそれならだろうが」
「いや、別にないんですよ。ただゲームとしては団体戦みたいなもんですし、勝てると思ったら行きますよ。逆ならすぐ引きます、ゴスロリのナオさんはこれしか出来ないですし」
「チッ、この武士は俺がやる、何企んでるのかを暴くのがこの勝負のポイントだろーしな」
身を乗り出して、モヒカンは武士の池本に圧力をかける。
「では、私の道場にある小学生の弟子がいたのですが片足が義足だったんです。ある日私に聞きました、片足がないと強くなれないんですか? あなたならどう答えますか?」
「実際の話しだろ? 先にあんたはなんて言ったのか教えろよ」
池本は目を閉じ、少しトーンを落としてゆっくり喋る。同時にモヒカンに向かいまた指を動かすゴスロリ。
「その子には自信がない様に見えた、だから私の道場に来たのだと思います、隻腕の空手家もいます。人の3倍努力して、足をあまり使わない戦い方を考えてひたすら基礎を練習させました。何か一つ自信を持たせる事を与えるのが私の使命と考えたからです」
再びチッと舌打ちをしたモヒカンは不機嫌そうに唇をとんがらせる。
「やっぱり引っ掛けじゃねえか、情報がないと答えようもない」
「その引っ掛けを見事クリアです、そしてそれを聞いてどう思われますか?」
「正しい正解なんてないだろ、そのお前の判断も非の打ち所がない様に見える。こんな物は議論する事ではない、しかしハートブレイクにおいて決着を求めるのなら、俺も同じ事をしたって言うぜ。頭の良し悪しではなく、それは正しいか正しくないかだろ」
「感服です、いい指導者になれますよモヒカンさん。私の負けです」
「あぁ!?」
またゴスロリの指が動かなくなってからだ、それだけで他の時間は目も合わせようともしない。
『はい、2人目のクリアです! 凄い快進撃ですねえ』
もうこれは完全に何かの作戦、こんなに弱い筈がない。
「次はもう私の番ですか、ほっほ。まだ30分も経っていない。強いですねえ」
「どうせあんたも負けるつもりだろ、俺が相手するからさっさと終わらせようよ。トランプも必要ない」
モヒカンがイライラ貧乏ゆすりをする隣のケンジも不機嫌そうな感情を全面に顔に出す。ここまで来たらあのゴスロリしか気にならない、またケンジに向かって指を走らせる。
「パーフェクトヒーラー、パーフェクトスラッシャーはもう聞きましたかな?」
「なんかそれが目的とか言ってたな」
老人紳士の丸山は髭を摩り、丸い眼鏡から初めて真剣な目つきを見せた。
「あなた達がそれが出来る可能性があるかどうかを確認するためだけに来たんですよ、この次のナオさんは凄い事が起こる。それを乗り越えたらいいだけの話し。私を含め他の3人も負けるだけとはいえこの段取りが必要だったんですよ」
「じゃあもう何もしてないけど、負けてみてよ」
「ほっほ。解りました、私の負けです」
『なんと三連勝〜! 強いつよ〜い!』
ケンジは机を音をたてて叩く。
「もうイヴとかいいからさ! 次のゴスロリでさっさと終わりにしろよ!」
無言で最後にハートブレイクをしていない僕に今度は同じ事をしてくるゴスロリ。
それが2分程続いたが、この儀式が終わらないと次に行かないつもりだろうし。黙って待つしかない。
「丸山さん、終わりました」
また下を向いてポツリとギリギリ聞き取れる音量で申し訳なさそうに指を止めた。
「ナオさん今日は速いですねぇ。申し訳ないのですが、ここで一旦勝負を止めます、準備が出来次第お呼びしますので各自ゆっくりして下さい」
「準備って? ゴスロリが今何かやってる事? ハートブレイクになってないじゃないか」
「渡辺さん、私達はピープルといったはずですよ、やり方も色々です。女子大生の谷口さんと武道家の池本さんはここでコテージから出てもらいます、やる事があるので」
立ち上がった2人は僕らに頭を下げて雪が降る外へとそそくさと出ていった。
ゴスロリは二階に上がって行く。
なんだこの流れ。不気味でしかない、もう犯罪か何かに巻き込まれてるのか?
「なんで丸山さんだけ残るの?」
「お茶を入れながら少しお話ししたかったんです」
ケンジとモヒカンにはビールが出され、彩子と僕にはお茶が出された。
「いかにも私が本当の黒幕です、会社を何個か持っていましてその内のアプリ制作会社にこのアプリを作らせたんです」
「金儲け?」
ケンジは軽蔑の目でビールの口を開ける。
「金儲けではないんです、実際大赤字なんですよ。例えばケンジさんのために作ったと言っても過言ではないんですよ」
「人助けのつもりだってのか? もう何人狂わしたか解ってんのか?」
一気に飲み干したビール缶をモヒカンは強く握りつぶす。
「パーフェクトスラッシャー、パーフェクトヒーラーについては?」
彩子は眼鏡を吹きながら老人紳士をじっと見つめる。
「ここまでですね、それよりこの後の事を乗り越えたらすぐ解りますよ。雪も落ち着いてきたみたいですね、私は失礼ですがナオさんの部屋でお手伝いしてきます。時間がかかると思うのでゆっくりくつろいで下さい」
ニコリと悪意のない笑顔を作ると、老人紳士は二階へと上がった。
「何かもう結論出そうとしてるのね、もうハートブレイク関係ないんじゃない?」
彩子は老人紳士に目をやりながら最後の一口を飲み干した。