心理戦の100万円アプリ
楽園
耳元で騒がしい音が定期的にリズムを取り騒ぎ出す。
外が暗い、今何時だ?
朝帰りで彩子の運転手が部屋の布団に寝かせてくれてからそのまま寝てしまっていたのか、そして『イヴ』からの最後の呼び出しか。
「おはよう、最後はどこ? 谷口さんだっけ」
「おはようございます、渡辺さん。アプリでは『イヴ』でお願いします、準備ができたら初めて最初の8人が集まった赤い館に来て下さい、では失礼します」
いつもの仕事の出勤のように淡々とシャワーと着替えを済ませる。
最後は負けても借金なし、できるだけ全力を尽くすだけだと思うと気が楽だ。
よし、行くか。ドアから出ると外に黒い高級車が止まっていて、横で舞踏会仮面をしたスーツの男が頭を下げている。
「また強く雪が降ってきたか」
車の中に誘導してくるのを受け入れ、外の景色を見て落ち着きを取り戻そうとしている自分に驚く。
やはり慣れない、普通に終わる気がしない。緊張感が胃を刺激するので、右手で強く上から圧迫して外の景色に集中した。
到着して降ろされると、暗くなった赤い館をうっすら灯りが照らすのを見て胃痛は喉が直接鼓動を打っている様に感じる。
早くあの3人と会ってリズムを取り戻さないと。ドアを開けてさっさと終わらしに行こう。
『ギイ』
ドアを開けて視界に入ってきた事態に心臓が弾けそうになる。
過去にいた空間を想像していたものとは違ったからだ。
四人が楽々と座れる程の正方形のテーブルに白い布が被されていて、彩子、ケンジ、モヒカンはもう座っている。
横には黒いソファが対をなして置かれている、これが最後のハートブレイク用か。最後に、ウサギの仮面をした白いスーツの男を始めに蛙、狐、猿、虎の仮面の全員で5人。車椅子と、白いスーツは面屋と丸山さんか。他もアプリを作った人間で間違いないだろう。
言われるまでもなく、残りの1席に座ると、緑のドレスを着た狐の仮面が小型ピンマイクを取り出す。
『ようこそ、では食事を運びますので必ず一口以上食べて下さい。毒などは一切無く、ゲームの進行に必要な事です』
皿には蛇の絵が全員にある。
彩子は仮面5人の観察。
ケンジは下を向いて皿を見ている、何か意味があるはずだ。
モヒカンは黒いドレスの虎の仮面を見ている、おそらくナオだな。
奥から黒スーツの般若の仮面がカゴを持って出てきたのを見て戦慄が背筋を走った。
こいつが……最後の相手か。
般若仮面は座る四人に後ろから、少し雑に林檎を一つずつ置いて、一歩下がる。
蛇の皿に林檎、怪しすぎる。食べろって言うのか?
般若の仮面が気になる、誰だ。男のようだが。
『一口食べて下さい』
「なるほど、凝ってるわね」
イヴの声に彩子が1番最初に林檎を齧る。
続いてケンジ、それを見て意味が解らないまま僕も一口、最後にモヒカン。
「旧約聖書に出てくる知恵の林檎ね」
熱心なクリスチャンを母に持つ彩子はメガネを光らせるように凛と放つ。
ウサギ仮面の白いスーツが一歩前に出る。
「私達は、Edenのメンバーです。般若仮面は違いますが」
Eden? エデン、楽園か。メンバー? どういう事だ。
ウサギ仮面が、手に羊の仮面を取り出す。
「あなたの為にここまできました、さあ羊さんこちらに」
『え』
ケンジが椅子を引き、ウサギ仮面の所に行くと羊仮面を取る。
「やっぱりね、みんなに説明してあげなよ」
ケンジは羊仮面を後ろに放り投げるとこちら側の3人を悲しそうな眼で見る。
全員仮面を取ると、丸山さんが頭を下げて顔を上げて喋り出す。それを合図に般若男以外全員仮面を外した。
なんだよ、どうなってるんだよ。
「私達は、インターネットのサイトのメンバーなんです。ウサギやら蛙やらはネット内でのハンドルネーム。そしてそのメンバーが集まる部屋の名前が『Eden』なんです」
声が出ない、心の中に言葉すら浮かばない。今起こっている事を理解するのに必死だからだ。
「ネット内での会話はハートブレイクと同じ、精神論の知恵比べから雑談。そしてある事が起きてしまいケンジさんは出てこなくなりました。残った私達は、この会話をハートブレイクのゲームとして1年かけてアプリを作製。それで皆さんがプレイヤーとして現在になります」
「……ケンジ、あんた知ってたの?」
彩子が怒りをできるだけ抑える様に震えた声を出す。
「本当に知らなかった、京都最後の勝負のコテージ二階で疑惑が確定になったんだ。サイトの時に見せられたナオの絵に似た絵だったし。あえて何も聞かなかったけど」
「ふざけんな!」
彩子は立ち上がり、林檎をケンジに投げつける。
それはケンジの足に当たり静かに転がる。
「アダムとイヴは蛇にそそのかれて林檎を食べてしまい、知恵をつけたばかりにエデンを追い出された、アダムはケンジさん。蛇は周り全ての人間、林檎は教養を押し付けた社会と私達は話していました。3人共これが最後のハートブレイクです、ケンジさんをお願いします」
丸山さんは再び礼儀正しく頭を下げた。
「何? 俺を殺すためのゲームなの? 丸山さん」
ケンジはナオに手を引かれ、ソファに座らされる。
「ハートブレイクが始まったら全ての説明をします、それともういいですよ般若さん」
まだこいつがいた。どうなっているんだ。
こいつが黒幕? アプリが出来た大体の流れしか理解できない。
ハートブレイク用である、黒いソファに座るケンジの前に般若の仮面が立つとケンジを指差した。
「あんたが黒幕だったのか、ハートブレイクを申し込む」
外が暗い、今何時だ?
朝帰りで彩子の運転手が部屋の布団に寝かせてくれてからそのまま寝てしまっていたのか、そして『イヴ』からの最後の呼び出しか。
「おはよう、最後はどこ? 谷口さんだっけ」
「おはようございます、渡辺さん。アプリでは『イヴ』でお願いします、準備ができたら初めて最初の8人が集まった赤い館に来て下さい、では失礼します」
いつもの仕事の出勤のように淡々とシャワーと着替えを済ませる。
最後は負けても借金なし、できるだけ全力を尽くすだけだと思うと気が楽だ。
よし、行くか。ドアから出ると外に黒い高級車が止まっていて、横で舞踏会仮面をしたスーツの男が頭を下げている。
「また強く雪が降ってきたか」
車の中に誘導してくるのを受け入れ、外の景色を見て落ち着きを取り戻そうとしている自分に驚く。
やはり慣れない、普通に終わる気がしない。緊張感が胃を刺激するので、右手で強く上から圧迫して外の景色に集中した。
到着して降ろされると、暗くなった赤い館をうっすら灯りが照らすのを見て胃痛は喉が直接鼓動を打っている様に感じる。
早くあの3人と会ってリズムを取り戻さないと。ドアを開けてさっさと終わらしに行こう。
『ギイ』
ドアを開けて視界に入ってきた事態に心臓が弾けそうになる。
過去にいた空間を想像していたものとは違ったからだ。
四人が楽々と座れる程の正方形のテーブルに白い布が被されていて、彩子、ケンジ、モヒカンはもう座っている。
横には黒いソファが対をなして置かれている、これが最後のハートブレイク用か。最後に、ウサギの仮面をした白いスーツの男を始めに蛙、狐、猿、虎の仮面の全員で5人。車椅子と、白いスーツは面屋と丸山さんか。他もアプリを作った人間で間違いないだろう。
言われるまでもなく、残りの1席に座ると、緑のドレスを着た狐の仮面が小型ピンマイクを取り出す。
『ようこそ、では食事を運びますので必ず一口以上食べて下さい。毒などは一切無く、ゲームの進行に必要な事です』
皿には蛇の絵が全員にある。
彩子は仮面5人の観察。
ケンジは下を向いて皿を見ている、何か意味があるはずだ。
モヒカンは黒いドレスの虎の仮面を見ている、おそらくナオだな。
奥から黒スーツの般若の仮面がカゴを持って出てきたのを見て戦慄が背筋を走った。
こいつが……最後の相手か。
般若仮面は座る四人に後ろから、少し雑に林檎を一つずつ置いて、一歩下がる。
蛇の皿に林檎、怪しすぎる。食べろって言うのか?
般若の仮面が気になる、誰だ。男のようだが。
『一口食べて下さい』
「なるほど、凝ってるわね」
イヴの声に彩子が1番最初に林檎を齧る。
続いてケンジ、それを見て意味が解らないまま僕も一口、最後にモヒカン。
「旧約聖書に出てくる知恵の林檎ね」
熱心なクリスチャンを母に持つ彩子はメガネを光らせるように凛と放つ。
ウサギ仮面の白いスーツが一歩前に出る。
「私達は、Edenのメンバーです。般若仮面は違いますが」
Eden? エデン、楽園か。メンバー? どういう事だ。
ウサギ仮面が、手に羊の仮面を取り出す。
「あなたの為にここまできました、さあ羊さんこちらに」
『え』
ケンジが椅子を引き、ウサギ仮面の所に行くと羊仮面を取る。
「やっぱりね、みんなに説明してあげなよ」
ケンジは羊仮面を後ろに放り投げるとこちら側の3人を悲しそうな眼で見る。
全員仮面を取ると、丸山さんが頭を下げて顔を上げて喋り出す。それを合図に般若男以外全員仮面を外した。
なんだよ、どうなってるんだよ。
「私達は、インターネットのサイトのメンバーなんです。ウサギやら蛙やらはネット内でのハンドルネーム。そしてそのメンバーが集まる部屋の名前が『Eden』なんです」
声が出ない、心の中に言葉すら浮かばない。今起こっている事を理解するのに必死だからだ。
「ネット内での会話はハートブレイクと同じ、精神論の知恵比べから雑談。そしてある事が起きてしまいケンジさんは出てこなくなりました。残った私達は、この会話をハートブレイクのゲームとして1年かけてアプリを作製。それで皆さんがプレイヤーとして現在になります」
「……ケンジ、あんた知ってたの?」
彩子が怒りをできるだけ抑える様に震えた声を出す。
「本当に知らなかった、京都最後の勝負のコテージ二階で疑惑が確定になったんだ。サイトの時に見せられたナオの絵に似た絵だったし。あえて何も聞かなかったけど」
「ふざけんな!」
彩子は立ち上がり、林檎をケンジに投げつける。
それはケンジの足に当たり静かに転がる。
「アダムとイヴは蛇にそそのかれて林檎を食べてしまい、知恵をつけたばかりにエデンを追い出された、アダムはケンジさん。蛇は周り全ての人間、林檎は教養を押し付けた社会と私達は話していました。3人共これが最後のハートブレイクです、ケンジさんをお願いします」
丸山さんは再び礼儀正しく頭を下げた。
「何? 俺を殺すためのゲームなの? 丸山さん」
ケンジはナオに手を引かれ、ソファに座らされる。
「ハートブレイクが始まったら全ての説明をします、それともういいですよ般若さん」
まだこいつがいた。どうなっているんだ。
こいつが黒幕? アプリが出来た大体の流れしか理解できない。
ハートブレイク用である、黒いソファに座るケンジの前に般若の仮面が立つとケンジを指差した。
「あんたが黒幕だったのか、ハートブレイクを申し込む」