彼女は心に愛を飼っているらしい
足を止め振り返ったと同時に彼女、雨宮みことのゆるっとした笑顔が僕の目に映った。
「何?」
僕は一言だけ言葉を返した。
「いや~特に用はないんだけど話してみたいなと思って」
へらっと無邪気に笑う彼女に、関わったら面倒くさいことになるということはすぐに想像がついた。
だから僕は返事もせずに歩き出す。
「あっ、待ってよ。ねぇ!」
早足で歩く僕の後ろ姿に彼女が必死で話しかける。
追いつこうと自分もスピードも早めたんだろうか。後ろで大きく地面を蹴る音がした。
「今日、友達出来なかったの……だからキミに話しかけようと思って。一番最初に話したキミに」
「…………」
それでも僕は無視を貫いた。
本当は彼女と話して、黒く塗りつぶされていない原因を探っても良かったのだけれど、これといって不便さを感じない僕にとって、面倒くさい彼女と話している方が負担だと思った。
「私と仲良くなったら、キミが私の友達1号だよ!」
友達になんて、なりたくない。
ましてや1号だなんて、特別染みた名前はもっと嫌だ。
避けるように歩く僕に、諦めることなくついて来る彼女。