彼女は心に愛を飼っているらしい
本当に分かっているのか、見えているのかは分からない。
それでもきっと、誰かが理解してくれることで進める1歩は存在するだろう。
「描いてみようよ、絵を。私が見てるから」
僕はきゅっと唇を噛み締めた。
「それとも見られるのは嫌?それなら私はここを出て行くけど。
その代わり約束して。今日は絵を描いてみるって」
僕は視線を床に落として言った。
「好きなものは強引にするものじゃないって、キミの方が言いそうだけど」
「そうだよ、よくわかってるじゃない。
でもキミは最初の1歩を踏み出すのが怖いから立ち止ってるんだもん。
だったら背中を押してあげることくらいいいでしょ?」
「…………そんなんじゃな、」
な、の言葉を言った時、彼女は僕に言葉を被せて来た。
「否定はもう聞き飽きた。私は海に行った時、本当にキミのしたいことをこの目で見たの。
そのキミを信じたい。だから……約束」
そういうと彼女は小指を差し出した。
「ウソついても、何もしないよ。だけどよく考えて自分の心に飼っている愛と相談してみて」
そう言うと彼女は胸に手を当て、ぎゅっと拳をつくり、握り締めたまま僕の方に手を差し出した。