彼女は心に愛を飼っているらしい
手を開いても何もない。
からっぽの何かを僕にむけて伝える。
”キミの飼ってる愛を表現してよ”
彼女はそれだけを伝えると、もう帰るね。と言って僕の家から出ていった。
嵐のようにやって来たかと思ったら風のように帰っていった彼女。
静まり返った部屋はなんだか落ち着かなくて僕はただその場に佇んだ。
キレイに重ねられた絵が机の上に置かれている。
黒くて何を描いたかも分からないような絵をどうして”キレイだ”なんて表現出来たんだろう。
彼女が飼っているとか言った愛がそう見せたというのだろうか。
そんなことを考えていた時、外からぽたり、ぽたりと雫の落ちる音が聞こえた。
窓から外を見てみると、ぱらぱらと雨が降って来ていて、その雨音はだんだんと速さを増していく。
やがてザアっと強い雨に変わり、まるで汚れた泥を洗い流すように降り注いだ。
彼女は無事帰れたのだろうか。
食器を片付けながら思う。
彼女ことを考えるたび、最後の言葉が頭にこびりついて離れない。
僕の飼っている愛を表現する。
そんなもの存在しないのに、あると確信して言う彼女の言葉はやっぱり苦手だった。