彼女は心に愛を飼っているらしい
僕は引き出しの奥に手を入れて探り、小さな透明のスポイトを中から掴んだ。
そういえば、固まってしまった絵の具もまだ使うことが出来るんだと教えてくれたのは大沢先生だった。
この小さなスポイトももらったものだ。
スポイトに水を含ませ、絵の具の出て来る口から水を馴染ませる。
それを繰り返すと少しずつ溶けていく。
まるで僕の心を溶かすのと同じように。
使える程度まで溶けた頃には僕はもうパレットを持っていた。
机の上の参考書なんて目もくれず、筆を持ち目をつぶった。
描きたい映像は目を瞑ればすぐに浮かんでくる。
少し前に見た、青。
白を含み、繰り返しこっちにやって来てはまた戻ってくる映像を夢中になって描いていた。
心がぶるり、と震えた。
してはいけないこと。
もう見たくないと思った気持ち。
嫌いになろうとしたこと。
全部忘れて、僕は気持ちをぶつけるように書き続けた。
鮮やかな青が真っ白なキャンバスに浮かびあがった時、僕はようやく筆をおいた。
頭の中が真っ白になっていて、始めてから3時間も経っていたことに気づかなかった。
ふうと息づいて、出来上がった絵を改めて眺めたら心の奥から込み上げて来るものがあった。