彼女は心に愛を飼っているらしい
6.タイトル未定
その日、僕は夢を見た。
僕がいて、彼女がいて、
彼女が心に手をあてている。
そして握りこんだ手をそのまま僕に向けて、開いてみせる。
その手の中には……。
ぱちり、と目が覚めたのは僕が彼女の手の中を確認する前だった。
昨日書き上げた海の絵の隅っこを切りとって作ったしおり。それをバッグに入れ、僕は家を出た。
今日は補習日だ。
補習と言ってもテストの点数が悪い人が出るものではなく、学校に来て勉強したい人向けに開かれるものである。
彼女が来るかどうかは分からないけど、もし来たらどう言ってこれを渡そうか。
透明のアクリル板でコーティングしたしおり。
今思えば随分浮かれていたな、と思う。
"キミが見せろってあまりにもうるさいから”
それなら描いた絵を見せるだけで良かったはずだ。
"どうせ、何か欲しがりそうだから”
いらないといわれたら?舞い上がっていると思われる。
"気づいたら作っていて……”
そんなこと、あるはずがない。
何を考えてもやっぱり不自然でいっそ、あげるのはやめてしまおうかと思った。
彼女が帰った後、絵を描かなかった。
そう言えばいい。
それが一番自然だ。
しおりの存在を無かったものにしようとした時、誰かが強めに僕の肩を叩いた。