彼女は心に愛を飼っているらしい
「やっ、ほ」
彼女だった。
補習に来るようなタイプには見えないけれど、バッグをしっかり持ってやる気満々で教室に向かっている。
「最近早く起きるようにしてるんだ。早起きは3文の徳って言うからさ」
「珍しいな、勉強なんてわざわざするタイプには見えないけど」
「キミが来ると思ったから来たんだよ」
胸を張って笑顔を浮かべる彼女に、いつもならどうして僕が来るとキミまで来ることになるのかと聞き返すところだったけど、僕は黙ってバッグの中にあるしおりを差し出した。
「……これって、もしかして……!」
けっきょく、考えていた言い訳はどれも使うことは無かった。
「キミが描いたもの?」
「どうかな?」
「分かるよ。だって私、キミのファン1号だから」
「ファンって……」
僕が照れくさくて目を反らすと彼女は今までで一番の笑顔を見せた。
「ありがとう、大事にする」
どんな気持ちで描いたとか、描いてる時にどう思ったとか、そんな説明はいらなかった。
彼女にあげたしおりが全てを物語っている。
ただそのしおりを本に挟まず、教科書に挟んでいたのは本当に勘弁して欲しかった。