彼女は心に愛を飼っているらしい
なんの歌、だなんて興味も無いのによくそんなことを。自分で言って恥ずかしくなった。
「私が今作った即興ソングだよ。タイトルはそうだなあ……キミのことが知りたい、かな?」
「よく恥ずかしくないね」
ようやく戻って来た自分らしさに安堵する。
考えるよりも先に言葉が出てしまうなんて僕らしくもない。
「私ね、歌手になりたいんだよ」
「それは自己紹介の時に聞いた」
「自分の持ってる夢、恥ずかしがってちゃもったいないでしょ?」
――勿体ない。
彼女の言う勿体ないは何を指しているのか僕には分からなかった。
あえて聞くこともせずに前へと向き直る。すると彼女は僕の背中に問いかける。
「で、意味。教えてくれる気になった?」
「キミさ、さっきので何か変えられたと思ってる?」
振り返れば何も言わず、ただニッコリ笑う彼女がいる。その凛とした表情がはっきりと肯定を示していて潔ささえ感じさせる。
よくもまぁ、そんなに自信を持てるな。
「図々しい」
「それ、よく言われる」
「そんな期待した目で待たれても何も言わないよ」
「それでも期待した目をして待ってるね」