彼女は心に愛を飼っているらしい
そんな期待を半分。表情の見える彼女がどんな反応をするのか半分で僕は手を打った。
彼女の目をしっかりと見る。そして、言う。
「僕にはみんなの顔が黒く塗りつぶされて見えるんだ」
自分で口に出しても、まるで本や映画の中の物語を話しているようだった。
改めて誰に言ったって信じるわけがないと思う。
それは彼女の反応を見てさらに思った。
「わーお……」
思わずこぼれた感嘆の声。そこには大きな目をぱちり、ぱちりと動かしてまばたきを繰り返す彼女がいる。
さすがにこればかりは驚いたのか、彼女はじっとこっちを見て目を逸らさない。
さぞ気持ち悪いと思ったことだろう。
やっぱり口に出さない方が賢明だった。
ふっと嘲笑い、歩き出す。
これで面倒くさい彼女と縁が切れるなら安いものだ。
2.3歩足を踏み出した時、彼女は僕の腕を掴んで引き止めた。
「ねぇ!それはどういう風に見えてるの?」
「は?」
振り返ってみてみれば、期待に満ちている彼女の眼差しがある。
「塗りつぶされてるって?人の表情が見えないの?それってどんな世界なの?」
彼女から次々と投げかけられる疑問にたじろぎながらも、しっかりと彼女の目を見ると、そこにはからかいや、バカにする気持ちが全く含まれていなかった。