彼女は心に愛を飼っているらしい


絵が完成した時は、じわじわと込み上げて来る何かがあったのを覚えている。


『見えないものを無いと決めつけるのは、ただ1点を見つめてその場で足踏みしているのと同じだ』


その言葉と共に知ったのは、青いいちごは無くとも、白いいちごはあるということだ。

僕が見たこともない世界はどこかで存在しているかもしれないし、していないかもしれない。


ただ、無いと決めつけるとそれはそこまで止まってしまう。


そんなことに一度気づいたのに、僕はそれっきりいつの間にか、元の自分に戻ってしまった。


「足踏みか……」


してるのかもしれない。今も、昔も――。


昼休みが終わるチャイムが鳴ったことで、僕はかなりの時間考えににふけっていたのだと思い知った。


彼女が自分の席に戻っていき、問題集を机の中から取り出す。


午後の授業は、体育祭の係り決めという至極どうでもいいものだった。

こんなものに時間を取られるのは本当にもったいないと思う。


僕は机の上で頬杖をつき、目の前の黒板をぼんやりと眺めていた。


全員が係りをやらなくてはいけない。そういう強制的なルールはばからしいな、と思う。

やりたい人がやるのが一番いいに決まっているのに、やる気ない人を無理矢理役職につかせるから問題が起きるんだ。



< 30 / 107 >

この作品をシェア

pagetop