彼女は心に愛を飼っているらしい
「ねぇ、今日は本当について来ないでくれない?キミと話すと勉強時間が削られて、寝る時間が遅くなる」
きょとんと首をかしげる彼女。回りくどく言うと、どうやら彼女には伝わらないらしい。
「迷惑なんだよ、今日は早く帰りたいから」
ぴしゃりと放った言葉に彼女はしょぼんと肩を落とした。
なんだ、しおらしい反応も出来るんだな。
いつもこれくらいであれば、友達も1人や2人、出来るかもしれないのに。
そんなことを考えながら歩き出せば、彼女はもうついて来なかった。
この日は風が少し強かった。ひゅっと鋭い風が吹くたびにまだ成長途中の緑の葉がひらひらと落ちていく。
地面には役目の終えた茶色の葉とまだ緑の葉が混ざり合っていた。
緩やかな坂道を下り、しばらく歩いて橋を渡ると、一戸建ての住宅が立ち並んでいる。その一角が僕の家である。
ドアを開け、家に帰宅すると母さんが出迎えた。
「お帰り、はぐむ」
「ただいま。いたんだ」
「いたんだはないでしょ?母親に向かって」
家にいることの方が珍しいのだから、そう思うのは仕方のないことだ。つぶやくことはせずに心に留めておく。
すると、母親はキッチンに立ち僕に温かいコーヒーを入れてくれた。