彼女は心に愛を飼っているらしい


テレビを見て笑いながら食事をすることも、美味しいね、なんて笑顔で話すことも許されない。

それに不満を持ったことは今まで一度だって無かったのに、今日はなんだかその沈黙に対して、物足りなさを感じてしまう。


「…………」

「…………」


食器の音が響く不快感は、彼女が一番最初、食事をする際に話しかけて来た不快感と同じだっただろうか。


思い出せない……。


それでも、もし、彼女がここにいたらどうしただろうと考えている僕は、塗り替えられているのかもしれない。


後から塗り替えてもきちんと馴染むのは独特の匂いのする油絵(あぶらえ)だけだ――……。




 外食から帰って来た後、母さんは言った。


「明日からまたお父さんもお母さんも帰れないことがあるからお金、置いておくわね」


パサっと渡された数枚の紙切れ。
紙に映る人物が僕の方を見て嘲笑っているようにも見える。


「渡した分のお金は全部使っていいんだからね。ほら、はぐむいっつもコンビニのお弁当ばっかりじゃない?たまには豪華なご飯買って食べなさいよ

このお金をゲームセンターとか遊びで使ったしないなら何したっていいんだから」


「そんなのに興味ないよ」


「そうね、はぐむはお母さん達をガッカリさせないものね」




< 36 / 107 >

この作品をシェア

pagetop