彼女は心に愛を飼っているらしい
「ねー、はぐむくん」
すると、ひとり僕に話しかけてくる人物がいた。彼女はいつも集中しだした時にやってくる。
「暇だよね、やること決まってたらこんなに考えることないもん」
彼女は恐らく第一希望に「歌手」とでも書いたんだろう。
僕と同じようにその他は何も書かずにすぐ伏せた。それで、時間を持て余したからこっちに来たってところか。
「ねぇ、キミはなんて書いたの?聞いて無かったよね、キミの将来の夢って何?」
「別に教える必要ないだろう」
「だってキミ、私の将来の夢知ってるじゃない」
「キミが勝手に暴露したんだろう」
それはそうだけど、なんてつまらなそうにつぶやいて口を尖らせる。
諦めたかと思ったら、彼女は僕の机からするりと紙をスライドさせて自分の方に持っていた。
「紙見ちゃおう」
「勝手に見るなよ!」
奪い返そうと手を伸ばしてもそれは空振りに終わり、彼女は紙を裏返した。
「えっ、医者になりたいの?」
わずかな沈黙の後に驚いた顔をする彼女。
何がおかしいんだと言おうと思ってやめた。
「キミさ、友達欲しいならそういうことしない方がいいよ。ちょっと無神経なんだよ、だから友達が出来ないんだ」