彼女は心に愛を飼っているらしい
僕、森谷はぐむ(もりやはぐむ)は、両親共に有名な医者の家庭に育った。
長男であり、一人っ子であった僕は親が引いた道を進むことが絶対であった。
何になりたいの?そう聞かれたら、医者になりたいという。まるでテンプレートのようにカテゴライズされた言葉をそのまま口に出すのだ。
〝本当にそれをやりたいと思っているのか?”
一度だけ、中学の美術教師に聞かれたことがある。だけど僕は迷わずに頷いた。
先までキレイに見えている道を進むことに不安はない。一歩進むたびに伸びていくその線は僕が生きていくための存在意義でもあった。
『いいんだな?諦めてしまって』
中学1年生の頃。
美術教師に美術部に入らないかと誘われて、勉強の負担にならない程度なら、と入部したのは確かに自分の意志だった。
僕の絵を見て、これはすごいと褒めてくれたことが、ただ単純に嬉しかったからだ。
美術部の活動は週に2日で、両親も勉強を怠らないことを条件に入部を許可してくれた。
絵を描くことは楽しい。
何も考えず、筆に絵の具をのせると手が勝手に動き出す。