彼女は心に愛を飼っているらしい
ああやっぱり行き止まりじゃないかと。
まっさらな思いだけではどうにもならないことがたくさんあるのだ。
「じゃあ泥遊びでもした方がいい?」
「どうしてそうなる」
途中からすっかりいつもの彼女に戻っていて、僕は呆れ顔を見せた。
夕日はやがて落ちていき、辺りは薄暗い青に染まる。
肌に触れた空気が冷たく、立ち上がった瞬間身体がぶるり、と震えた。
一体いつになったら暖かくなるのだろうか。
彼女はぱん、ぱんと衣服についた泥をはらいながら立ち上がった。
「帰ろうか」
その眼差しはまだ、空に向けられている。力強く、決意したような目。
なりたいものを堂々と口に出せる彼女を羨ましいと思う人はどれだけいるだろう。
きっと数えたらそれなりの人数になると思うのに、それでも周りに合わせて他人の夢を笑ってしまう。
現実味がないものなら尚更、口に出すのは痛いと言って自分が言わなくてもいいような理由を作り出す。
人間はそうやって嫌なことから逃げるように出来ている。
向き合おうとしない限り、強い意志がない限り、自らその道を歩んだりしない。
『逃げるのか』
ーーそう、逃げている。