彼女は心に愛を飼っているらしい
ほぼ同時に放った言葉はまるで違うものだった。
同じことを頼まれていて、まるで違う言葉を見つけてきて口に出す僕ら。
そこに正しさは存在しないけれど、それぞれの生き方は存在するのかもしれない。
仕方なく、僕たちは並んで歩くと、そのまま職員室に向かった。
「失礼します」
ガラっと音を立てて、ドアを開け担任の机がある場所まで向かう。
そこには山のように積まれたプリントがおいてあった。
ひとつには付箋が貼ってあり、【配る用】と書かれている。
僕たちは付箋が貼ってあるものだけを手分けして持つことにした。
「失礼しました」
プリントを手に抱えた彼女は、歩きながらその紙に書かれた文字を見てつぶやく。
「オープンキャンパスか……」
その言葉を聞き、僕も同じようにプリントに視線を移した。
どうやら今日も進路関係のことをやるらしい。
「ねぇ、キミはもう行きたい学校とか決まってるの?」
「まぁ……おおかた」
目星はついている。
行きたいというよりは、父親がいくつか提案してきた学校だけれど。
仕事が休みの時は一緒に学校見学に行ってやるとも言われた。
こんな時だけ、僕の父さんは父親らしいことをする。小学校の頃の授業参観や運動会、そんな行事には一度も顔を見せなかったくせに。