彼女は心に愛を飼っているらしい
僕は考えてから行動に移すタイプであるのに、絵を描く時だけは、考える前に身体が先に動き出すのだ。
唯一自由になれる場所。
それが僕にとっては描くことだった。
しかし、進む道を決められていた僕がそんな場所に長くいられるわけもなかった。
好きなものが出来るとそれを一番に優先したいと思ってしまう。それは人間の性分だろう。
僕はだんだん勉強の時間を減らして絵を描く時間に回した。町で行われる小さなコンテストに出てみないかと、教師に言われてワクワクしていたのだ。
自分の部屋に閉じこもり、勉強しているフリをして必死に絵を描いていた。
コンテストに出す作品がもう少しで完成する、そう思った矢先、偶然僕の部屋のドアを開けた父さんに見つかってしまった。
父は激怒して、僕の持っていた筆を奪い取り、床に叩きつけた。
最近成績が下がっていることや帰りが遅くなっていることを指摘され、そんなんでは医者になんかになれないと怒鳴られた。
『お前はなんのために生きてるんだ。医者になるためだろう。将来必要の無いものに時間をかけるな』