彼女は心に愛を飼っているらしい


「そっか~決まってるんだ。私、なんて書こうかなぁ」

彼女はまだ卒業後の進路までは決まっていないらしい。そもそも歌手になるという道がどういう道を辿るのか僕には分からない。


僕らが、自分たちの教室のドアの前まで来た時、ぴたりと足を止めた。

そして、僕たちふたりは顔を見合わせる。どちらも手が塞がっていて、ドアが開けられない。


すると彼女は思いついたように言う。


「足でいっか……よっ……」

よたよたとよろけながら、足を器用に使ってドアを空けようとする彼女を、僕はしかめ面で見た。

女子だろう。という感想を持ったことは言うまでもないのだが、彼女を止めようとした時、後ろから誰かがドアを空けた。


「……あ、小林さん。ありがとう」

「いーえ」


その誰か、はコバヤシさんという人らしい。

彼女は背が高く、細身のタイプだった。


相変わらず塗りつぶされた顔は、誰が誰であるか判別出来ないため、見ていることが出来なかったが、僕はうつむきながらお礼を言うと、教室の中に入った。


先に席に戻るコバヤシさんの後ろ姿を見つめながら彼女は嬉しそうにつぶやいた。


「話せた」


教卓にプリントを置くと、顔が塗りつぶされて見える僕を案じてか、コバヤシさんについて話始める。


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