彼女は心に愛を飼っているらしい
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時期は6月初旬。
ついに面倒くさい体育祭の日がやって来た。
日差しはさほど強くないものの、額にはじんわりと汗が浮かぶくらいには気温が高く、その汗を拭いながら、僕はああ面倒くさいと心の中でつぶやいた。
僕が自分で立候補した得点係りは、案の定、楽ではあったものの、彼女が常に隣にいたがために精神的な疲れは大きかったように感じる。もしかしたらまだ身体を動かしている方が楽だったかもしれない。
僕はすぐそばにいる彼女に視線を落とすと大きくため息をついた。
「どうしたの?そんなため息ついちゃって」
彼女は得点板の横にあるイスに腰掛けながら「あっ、転んだ!」とか「頑張れ、もう少し」だとか面識もない人にも応援を送りながら、得点を変えていた。
「もしかしてあのことだ?」
そんな彼女がまるで僕の弱みを握ったかのように、にやりと笑って言って来る。
「自分が運動音痴だったことに悩んでるんだ?」
ため息の理由はキミだとハッキリ言ってしまいたかったが、その話題を出されたら返す言葉が無い。
午前中に僕が参加したハードル競争、昼休憩を挟んでから行ったクラスリレーの結果は散々なものだった。