彼女は心に愛を飼っているらしい



「訓練をしてみたらどうかしら?」

「なんの?」


いつも思うけど、彼女の言葉には主語がない。


「キミはまだ黒塗りの症状が消えないでしょ?特訓したら治るかもしれないじゃない」

「治らないよ」

「なんでそんなこと言えるの?」

「もうかれこれ2年以上このままだ。何をしても治らない」

「何をしても、って何もしてないクセに」


僕はむっとして彼女を見上げた。
すると、彼女はそんな僕の表情には見向きもせずに言う。


「ほら、黒塗りになった時、何かがあったとかさ」

「さあ」


思い当たることいくつかあった。
だけれど、それを話す理由は今、一つもない。


「突然なったの?それじゃあ原因の突き止めようがないなあ……」


他人のことをまるで自分のことのように考えるのは彼女のいいところでもあり、欠点でもあると思う。


人には踏み込んで欲しくない事柄というものが存在するのだ。


「僕は別に今までこうやって生きてきて、困ったことはないし。わざわざ原因を突き止めるために面倒くさいことをするまでもない」


すると今度は彼女の方がむっと口を尖らせて言う。


「目と目を見て話す。表情が変わる。あっ、今怒ってるんだって分かる。それって大事なことよ」


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