彼女は心に愛を飼っているらしい


彼女はいちいち自分の言ったことにわざとらしいジャスチャーをつけて話した。


「何が言いたいんだが分からない」


僕の放った言葉に残念そうにため息をつく彼女



「だから、つまりは……」


頭で考えながら小さな声で言うと、彼女はあっ、とひらめいたような顔をして新たな提案をした。


「今週の日曜日に海に行こう。駅前で待ち合わせして、電車で行くの。ねぇ、いいと思わない?」

「何言ってるんだよ、土日は勉強があるから無理だし、そんなの親が許すわけない」


やっぱり彼女のひらめきはロクなものじゃない。


「勉強なんていつもしてるじゃない。1日だけ、気分転換だよ」

「気分転換なんて必要な……」


僕がそう言おうとした時、彼女は僕の机に勢いよく手をついて大きな声で言った。


「日曜日は11時に駅前で。待ってるから、来るまでずっーと!」


次に声をかける時にはもう彼女は姿を消していた。


逃げるように帰っていった彼女。
今日が金曜日であったことを思い出して僕はしてやられた、と思った。


いい逃げだ。
それでも、僕に行かなくてはいけない義務はない。


そんなことを言い聞かせながら、僕はのろりとイスから立ち上がり、教室を出たのだったーー。




< 72 / 107 >

この作品をシェア

pagetop