彼女は心に愛を飼っているらしい
彼女はいちいち自分の言ったことにわざとらしいジャスチャーをつけて話した。
「何が言いたいんだが分からない」
僕の放った言葉に残念そうにため息をつく彼女
「だから、つまりは……」
頭で考えながら小さな声で言うと、彼女はあっ、とひらめいたような顔をして新たな提案をした。
「今週の日曜日に海に行こう。駅前で待ち合わせして、電車で行くの。ねぇ、いいと思わない?」
「何言ってるんだよ、土日は勉強があるから無理だし、そんなの親が許すわけない」
やっぱり彼女のひらめきはロクなものじゃない。
「勉強なんていつもしてるじゃない。1日だけ、気分転換だよ」
「気分転換なんて必要な……」
僕がそう言おうとした時、彼女は僕の机に勢いよく手をついて大きな声で言った。
「日曜日は11時に駅前で。待ってるから、来るまでずっーと!」
次に声をかける時にはもう彼女は姿を消していた。
逃げるように帰っていった彼女。
今日が金曜日であったことを思い出して僕はしてやられた、と思った。
いい逃げだ。
それでも、僕に行かなくてはいけない義務はない。
そんなことを言い聞かせながら、僕はのろりとイスから立ち上がり、教室を出たのだったーー。