彼女は心に愛を飼っているらしい
「やっぱり優しいね、キミは」
言われ慣れていない言葉に僕はふんっと鼻を鳴らす。
すると、彼女は僕の手を取り、強引に引っ張りながら言った。
「さあ、行きましょう。長旅に!」
旅、と表現出来るほどしっかりしたものではないけれど、家に置いてあったお金を持ってどこかに行くのなんて初めてだった。
「電車に乗って2時間半だって。案外近いのね」
僕はポケットに入れたお金で海までのきっぷを買った。出てきたお釣りはしっかりと、財布の中に入れ、バックにしまう。
「早く早く!」
先に改札を通った彼女に煽られながら、改札を通ると、僕たちは目の前に来ていた電車に乗り込んだ。
電車に揺られること1時間。
都会からどんどんと離れて行く列車は、駅に停まるごとにだんだんと人が減っていく。
そんな中、彼女は身体をぴょんぴょんと跳ねさせながら窓を見ていた。
「なんか不思議だなぁ、休日にキミと一緒に出掛けてるなんて」
「キミが言い出したんだろう」
「でもまさか実現するなんて思わなかったもの。最近のキミ、ちょっと変わったような気がする」
「気のせいだよ」
僕は逃げるように窓に視線を移す。