彼女は心に愛を飼っているらしい


すると窓には、いつの間にか青々とした世界が広がっていた。


「わっ、すごい!もう着いた」


最終的に3回の乗り換えを経て、僕達は海がある駅に着く。長いと思っていた2時間半はあっという間で、気づけばもう砂浜に足をつけていた。


ザザザーー……。


すん、と鼻を鳴らすと、潮の匂いが鼻をかすめる。波の音と、目に映る無限の青がするすると身体の中に溶け込んでくる感覚は見えない何かを信じこむ感覚と似ている。


彼女は目の前の新鮮の空気を吸い込むように、身体いっぱい伸びをして、酸素を取り込んだ。


「ん〜〜いい気持ち」


澄んだ空気を取り込みながら、目の前のブルーを目に映せば、まるで心が洗われるかのような気持ちになる。


「海に来るとさ、いっつも叫びたくなるんだ。あの広い海の向こう側に届くくらい大きな声で」


彼女は水が砂浜まで届く辺りまで駆け寄って行くと、大きな声を出して誰もが分かる言葉叫んでいた。


「海に来たぞー!」


濡れても大丈夫なようにサンダルを履いて来たのか、彼女は叫び終えると両足を海につけて浅瀬をちゃぷちゃぷ音を立てながら歩いていた。


そんな彼女を置き去りにして、僕は静かに、そしてゆっくりと海沿いを歩いた。



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