彼女は心に愛を飼っているらしい
陽が水面に反射して、きらきらと光を放つ。
その眩しさに目を細めながらも、穏やかな波の音を聞いていると、心が癒された。
すると、彼女が何かを思い出すかのように言った。
「海はね、色んなものを与えてくれる場所なんだって」
静かなトーンで柔らかく言う彼女の表情には見覚えがあった。
それは決まって大切な人を話すときの顔だ。
「お母さんが言ってたの」
ずっと海だけを見つめている彼女。
そこには何もないはずなのに、言い知れぬ不安が存在している気がする。
僕はモヤモヤするその不安をはらうようにつぶやいた。
「そうかな」
すると彼女はようやく海から目線を逸らし、僕の顔を見た。
「僕のつけた足跡も、キミがここに来るまでにつけた足跡も、海が奪っていったよ」
「確かに、そうね」
彼女が切なげにつぶやけば、視線はまた海に戻ってしまう。
柔らかく、寛大で、くすみのない青が人に何かを与え、さらさらと流れて、寄り添う波が何かを奪っていく。
与えてくれるものが何かを奪っている不思議さは、見るものを魅了する。
すると、彼女は砂浜の砂を手で優しく掴みながら言った。