彼女は心に愛を飼っているらしい



「悪いけど、興味ないから」


長そうなおしゃべりに付き合ってあげるつもりは毛頭ない。

教室に人がぞろぞろと入って来たタイミングで僕は自分の席につくことにした。


「あ……」


彼女の小さな声は教室に入って来た集団の声によってかき消された。


黒く塗りつぶされて見えるその症状は、未だ治ったわけではないのだということを教室に入ってくる人、ひとりひとりを見て改めて思う。


じゃあどうして彼女だけがしっかりと顔が見られるんだろうか。


考えてはみるがまるで見当がつかない。

彼女と会ったことはないし、共通点は今のところない。


情報が少ないから仕方ないけど、調べたところでこの不可解な症例を解決出来るなにかを発見出来るんだろうか。


とりとめのないことを考えるのは苦手だ。

別にいいか、気にしなくても。


やがて教室に担任が入って来て、僕らに席に座るように促した。声と体格で男の先生であることが分かる。

担任が初めに自己紹介をすると、その後はひとり、ひとり、席を立って簡単な自己紹介をすることになった。

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