彼女は心に愛を飼っているらしい
「誰かに理解されなくてもいいって思える。それくらい自分が好きになればいいって」
ああ、その言葉は誰かさんの生き方とそっくりだな、僕はそう思った。
誰かに理解されなくても、いいって思える。
周りの目も気にせず、自らの道を自らで作っていく。彼女はそんな母親を見て育っていたのか。
そんなことを考えていた時、彼女はごぞごぞとリュックを漁ると何かを取り出した。
「じゃじゃーん。見て、これ」
「っ、」
僕は彼女が見せて来たものを見て、思わず息を止めてしまった。
「スケッチブック」
見慣れた大きなノート。
そのノートがかっ、と湧き上がる高揚感と、心を突き刺す痛みを感じさせる。
ふたつが入り交じった感情はどろどろにかき混ぜられて、明確に過去を思い出させる。
ひどく懐かしく、苦しい思い出。
そんな思い出にはしっかりとフタをした。
「すごいのよ、お母さん。本当にその場所にいるみたいな絵を描くの」
はずだったのに。
心臓がバクバクと音を立てて鳴っている。
彼女がスケッチブックを持ってきたのなんて偶然だ。
それなのに、得たいの知らない汗が僕の額からたらり、と流れた。