彼女は心に愛を飼っているらしい
「じゃあ今度見に来るといいわ。紹介してあげるから」
どちらでもない答えを出しても話が進んでいく彼女のスタンス。いつの間にかどうなっているんだと思うこともやめてしまったけれど、気づけば最初はそれを不快に思っていたことを思い出した。
「ねぇ、今度キミの描いた絵を見せてよ」
「そんなのないよ」
「うそ、絶対あるでしょ?持ってきてよ」
「嫌だよ」
「立派なものは人に見せてこそ価値があるってお母さんが言ってたわ」
「もう捨てたから無いし」
僕の家にしまってある絵はすべてぐちゃぐちゃで見せられるものは無い。
僕の目に映る世界と同じようにぐちゃぐちゃになったもの。
価値を無いものにしたのは自分自身だ。
「もう見れないんだよ……」
僕は届くか届かないか、ぎりぎりまで声を絞ってつぶやいた。
***
それからすぐに学校は夏休みに入った。
学校で会うこと以外、接点のない僕たちは、しばらく会うことはないだろうと思っていたけれど、休みに入って少し経った時、僕の家のチャイムが鳴った。
こんな昼間の時間に鳴るのは珍しい。
そう思いながら玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは、もう会わずに済むと思っていた彼女だった。