彼女は心に愛を飼っているらしい
母親も父親も仕事でいない。ふたりが帰ってくる前に元の状態にしておけば、家に人が来たなんてバレることもないだろう。
僕は彼女を自分の部屋に案内すると、勉強机に広がった参考書を片付けた。
「良かった、しっかりお茶菓子を持ってきておいて」
背後から聞こえる彼女の言葉に、どうやら僕がお茶菓子を食べたさに中に入れたと思っているんだと悟った。
全くをもって検討違いな言葉だけど、もう訂正する気力も残っていなかった。
「どうぞ」
「どうも」
彼女からお茶菓子を受け取り、キッチンに下りると、僕は母親がいつも作るようにコーヒーを入れた。
彼女にもらったお茶菓子を乗せたお皿とフォーク、コーヒーをふたつお盆にのせて部屋へ向かう。
彼女は僕の部屋の中できょろきょろと視線を動かしていた。
「キミらしい部屋だね」
「何もないって言いたいんだろう」
「片付いてるって言いたいんだよ」
僕が机においたお菓子を見た彼女はお礼を言うと、すぐに「食べて食べて」と促した。
夏休みに入り取り戻していった自分のペースは、彼女から来てから崩されっぱなしだ。
僕はフォークでシフォンケーキを一口サイズにすると口に含む。