彼女は心に愛を飼っているらしい


ぐちゃぐちゃに塗りつぶした自分の絵を捨てることが出来ずに、押入れの奥にしまいこんだあの日。

もう2度と見ないように奥の奥に押し込んだクセに、捨てることは出来ずにいた。


僕はそれを手にとると、彼女に手渡した。

何枚か渡した絵はすべて同じように黒で塗りつぶしてある。


「ぐちゃぐちゃだ……」


彼女は僕の絵を見て言葉を漏らした。


「そうだよ、全部そうだ。自分の描いたものは全部自分で塗りつぶした。」

「黒でぐちゃぐちゃに?」


「そう」


「それって、キミの見えてる世界と同じ?」


彼女も今、気づいたようだった。
僕とこの絵。リンクしたものがあることに。


「この絵も僕の世界もみんなぐちゃぐちゃなんだよ」


本当は分かっていた。
人が塗りつぶされてみえる原因を。


好きなものを塗りつぶして、見えないようにして、逃げたその日から、僕の世界までくすんでしまった。

直す方法も知らない。
いつ治るのかも分からない。

僕はこれを罪だと思うことにした。


一生、この罪を抱えて生きていくしかないんだと思う。


一度閉ざした気持ちは簡単に開くことが出来ない。一歩踏み出しても、また初めに戻ってしまう。


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