彼女は心に愛を飼っているらしい
これが僕の生き方。
そんなことを考えていた時、彼女はつぶやいた。
「この黒く塗りつぶされた奥には本当にキミがいるんだね」
黒塗りを指でゆっくりとなぞりながら、愛おしそうにそれを見つめる。
この絵にはそんな眼差しをされるほどの価値なんてないのに。それなのに、彼女はひとつずつ大事に大事に触れていった。
「すごくキレイなのに、もったいないな」
「キレイって……」
どこが?という疑問はくちびるにのせることはしなかった。
すると彼女はじっと絵を見つめながら思い返すように言う。
「黒く塗りつぶしたからって好きなものを嫌いになることなんて出来ないよね
例え見たくなくて、フタをしても気づけば溢れて来てしまうの
好きなものを見つけた時からそれくらい強いパワーをキミも私も持ってるんだよ」
彼女は目尻を下げると、人を包み込むように柔らかな笑みを浮かべてみせた。
「私には見えるから。絵が見えなくても、好きな気持ちを込めて一瞬懸命描いたものが」
「…………」
彼女はいつも人のあり方を無闇に否定したりはしなかった。
そんなんじゃダメだと伝えるのではなく、自分にも分かると受け入れるのだ。