キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
「じゃあ青信号になっても渡るなよ」
「それだと私帰れないよ。家どころか駅にすら着かないよ」
一緒に電車に乗りたくないんだろうけど、ガッツリ隣をキープしますから。
そして憧れのシチュエーション。満員電車で人の波に押されそうになるところを、私の顔の横に片手をつき、覆い被さる形で守ってくれるのだ。
「ぐふ、ふふっ」
「え。隣にいないでまじで」
碧音君の、高くも低くもない中性的な心地よい声を聞けるなら、いくらでも罵声を浴びます。
信号を渡り駅に着いて改札を抜け、電車が来るホームへと足を進める。
ライブで演奏していた他のバンドが数組いて、まるで有名人にでも出会したかのような感覚になった。
碧音君は気づいているのだろうか、否、きっと他のバンドになんて興味がないと一蹴りしそう。
7分待ったところで電車がホームに到着し、前の人に続いて車内に乗り込む。
「満員電車じゃなかった……」
「何を期待してたのお前」
「よくカップルがやってるじゃん?人とぶつかると危ないから、彼氏が彼女を守るために覆い被さってるあれ」
「痴女にやる主義じゃないし」
「電車の中で痴女ってやめてね?」
くそ。悲しいことに満員電車でもなければ、立ったのはドア付近でもなく真ん中の位置。