キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
おかしい、今までこんなこと一度もなかった。呆気に取られて体が動かない。
それに、ギターも持っていなかった。振り返っても既にスタジオを出ていったことは容易に分かる。
プリンの形が崩れるのも気にせず急いで休憩室とはガラス板で仕切られていて隣り合わせの練習室へ走りドアを叩いた。
1番近くにいた碧音君が出てきてくれる。
「碧音君、藍が……」
「うん」
私の言いたい内容は察してくれたようだ。碧音君も心なしか難しい顔をして、ドアに背を預けていて。
「何があったの?っていうか、追いかけなくていいの?」
練習室内ではまだ皐月と星渚さんは2人で楽譜か何かを見ながら話し合っていた。
「……藍が、暫く来られないって」
「ここに?」
「その後も、来られないかもしれないって言いにきた」
碧音君の言葉をゆっくり噛み砕いていく。それはつまり、midnightを辞める可能性があると受け取れる。
「辞めちゃうの?藍」
「辞めるとは言ってない」