キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
だから、駄々を捏ねる回数も毎年減っていった。結人は相変わらず連れていってと強請っているけど、教えてやろうか無駄だって。
「兄ちゃん?」
ドアの隙間から顔を覗かせる結人は怯えたように俺を見ていて。手には赤い……何あれ、隙間から少ししか見えないから分からない。玩具?
「入ってこいよ」
ベッドからのっそり上半身だけ起き上がり手招きすると、顔を綻ばせてベッドの上によじ登ってきた。
「くるま」
「車がどうかした」
赤いものは玩具の車だった。それを俺に見せて何すんの。車の玩具に興味ないんだよな。
「兄ちゃんが泣いてるから」
「泣いてないし」
実際涙は出ていないし、頬に滴は伝っていない。
「泣いてるから、元気出して」
元気出して欲しいから、車を俺に渡す?これは……結人なりに励ましてる、のか?
小2の結人じゃ知ってる言葉が少ないが故に相手に伝えようとすることは中々言い表しにくいだろう。でも、何となくは分かった。
「この車、結人が大事にしてたやつだろ?」
「いいよ、兄ちゃんのだよ」
家族らしい家族って、結人だけだきっと。
――――――そう思っていたのも束の間。