キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
視覚に訴えることが出来ないなら、耳を楽しませてあげようと思って。
この時ばかりは、春は笑ってくれたのだ。
「今歌ったのは、春のために作った歌だよ」
「嬉しい、すごく良い曲ね。聞いてると、ホッとする」
春にmidnightの曲もライブには来られないから録音したものを聞かせると『私midnightのファンになっちゃったよ。……私が、どうなろうと。midnightは、バンドは続けてね。ファンとしてのお願い』そう言ってくれた。
―――でも病気の進行はこの大切な時間すらあっさり奪っていって。
春から、笑顔が消えた。
あのふわりと優しさが滲み出る笑顔は、どこへいったんだろう。
俺は春を支えると決めたから、大学やバイトが終わった後は春の元へ通った。
病気についての参考書や資料を読み漁りできる限りのことをしたけど、医師ではないから限度がある。
どうして春が、視力を失わなければいけない。
彼女の世界からは色が消えていき―――光も、なくなりつつあったのだ。