キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】


藍は波江さんの笑顔が春みたいに穏やかと言っていたけど、藍の笑顔も同じくらい相手を癒してくれる。


その笑顔の裏に隠されていた想いや経験は、深くて重いもので。


それでも藍は耐えて耐えて、前に進んだ。


崩れ落ちて立ち上がるのにどれ程の力が必要だったんだろう、どれくらい歯を食いしばって歩いてきたんだろう。


抱えるものが、多過ぎるよ。藍だって抱えているものがあるのに、他人優先で自分は後回し。


過去の経験が、そうさせるのかもしれないね。


「俺は……っどうすれば」


悲痛にまみれた叫びだった。


光を失う怖さを藍も波江さんも分かっているからこそ、踏み出せない。


光を完全に失った波江さんが壊れてしまうんじゃないかって、心配なんだと思う。


闇しか見えなくなるなんて。

< 257 / 579 >

この作品をシェア

pagetop