キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
「時間がない、行こう」
先頭をきって星渚がライブハウスのドアを開けた。頼むから間に合ってくれ、碧音。
「碧音が来なかったら、観客とスタッフには何て誤魔化すわけ?」
「それは考えてある」
最悪の事態を考えて先手を打つのが星渚は早い。次へ次へと考えを巡らせていく。敵わねえな。
ライブは俺と藍でやるとして、星渚は碧音を探し出す。出来るだけ範囲も広くして。
「いてよ、刹那」
小さな声で祈るように言いつつ控え室に入り――僅かな期待はあっさり打ち砕かれた。碧音はいない。
嘘だろ。驚きで言葉も出ない。時間が許す限り待ったけどやはり現れず、2人でライブをやることは決定。
こんなの、初めてだ。碧音がライブを投げ出すことも初めて。
「皐月、藍、あとはよろしく」
「どうにかするから任せろ」
「分かった」
言葉少なに俺達は視線を交わした。