キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
「仰る通りです!」
ああ、文句の付けようがない。ペットボトルの中の、太陽の日差しで光る炭酸が、皐月の喉に吸い込まれていく。
良いなあ、格別美味しく感じるだろうな。
上下する喉元を食い入るように見つめるのと同時に、日焼けした肌と夏の太陽が何ともよく似合う男だと思う。
「お前なー」
「はい?」
「そんなにガン見されっと、飲みづらいんだけど。爪先立ちしてまで見られたの初めてなんだけど!」
おっと、いけない。自分でも無意識の内にこれでもかってくらい、近寄ってしまっていた。
「たっくよー。ほれ」
「ん?」
ずいっ、つき出されたサイダー。
「やるよ」
「え、私に?」
「お前以外いねえだろうが」
「そりゃそうだ。でも皐月が勝ったんですから、ルールはルールです」
大体ゲームをして負けた人が奢ると言い出したのは、私なのだ。
「細かいことは気にすんな。やるっつってんだから、ありがたく飲め!」
誘惑が、とてつもない誘惑が私を誘っている。負けてはダメだと分かってはいるけれど、今の私に断れなんて酷だ。
「……ください。頂きます!」
「どーぞ」
残り半分まで減っていたサイダーを一口飲めば、口の中で炭酸が弾け舌が少し痺れた。ごくりごくり、冷たいサイダーが身体に入っていく。
「っぷは!い、生き返った」
「おーおー。それは良かったな」
「けどこれじゃあ、ゲームした意味ありませんでしたね」
「お前が言うな」
「嘘です、ありがとうございます」
2人で炭酸を飲みながら頑張って歩き、やっとリハーサルスタジオに帰ってきた。
クーラーのガンガン効いたコンビニ程ではないけど、全身を冷えた空気に包まれ皆のいるところまで戻る。
買い出しで分かったのが、皐月は口は悪いけど優しいということ。
袋は持ってくれたし、サイダーも残りの殆どを負けたはずの私に飲ませてくれた。
高校生からしたら感じる“大学生”っていう壁のようなものも皐月にはなく、話に付き合い構ってくれるところも人付き合いが上手い証拠。
皐月の印象がちょっと、変わった。
「買ってきてやったぞ!食え」
「おかえりー」
「明日歌ちゃんも、お疲れ」