キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】


星渚さんがスティックを叩き、演奏が始まる。遅めの昼食を食べた後、早速皆は練習を再開。


週に数回行うリハーサルスタジオでの練習は基本合わせで、自主練は殆ど行わず各自家でやるようにするのが、皆のスタイル。


確かに、スタジオだって好きなだけ借りられる訳じゃないし、折角都合がついた日に自主練をやるのは勿体ないよね。


「Kill me,kiss me,hold me――」


この曲は2、3年前に発売された洋楽だ。歌詞は切ないのに、テンポが早く格好良い感じで私も好き。


今はコピーして演奏しているけれど、前半の練習では自分達の作った曲を演奏していて、それも切ない系の曲。


皆がコピーしたり自作したりする曲は“明るく元気になれる楽しい曲”というより、胸がキュッとなる切なさを含みながらもアップテンポでクールな曲、っていう統一感がある。


碧音君の力強くて、それでいてほんのり甘さを含んだ歌声のギャップが、絶妙なバランス。


これも、ファンを虜にする理由でもあるのかも。


「皐月、カッティング甘い」


「オッケー、直すわ」


「碧音、サビ前と後の強弱もっとつけられる?」


「うん。出来る」


「今言ったとこ直してもう1回」


曲を通しで演奏し、星渚さんが気になる点を皆に注意していき、改善を図る。


謂わば仕切り役だ。バンドのリーダーはボーカルって思わがちだけどそれはバンドによって様々。

midnightは明確にリーダーは誰って決めてはないみたいだけどリードするのは星渚さんかなって感じる。


何度も繰り返し納得のいくまで同じ場所を練習して、通しをやる。


練習中の皆の話を聞いていても、『タップスとアップスが』『プラッキングが』等楽器の専門用語ばかりであまり理解できないけど、曲の演奏の違いで何となくどういう意味なのか、分かるようになった。


4人共目が真剣で休憩中の時の和やかなムードは一切なく、私なんて空気も同然の存在だろう。


「俺は今のがいい」


「は?さっきのだろ」


様子を窺っていると、皐月と星渚さんが演奏の仕方で言い合いになった。


皐月は今のやり方がいいと主張するが、星渚さんは先程の方がいい、と。


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