キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】


大切な、夢だろう。


「いいんだ、俺はこれで」


「何でだよ?!」


「皐月が泣きそうな顔すんなよー」


バシバシと肩を叩かれても、笑えない。泣きたくもなる、こんなの。


「俺、父さんが頑張ってるの知ってるから。頑張って働いてるの、昔から見てたから。すっげえな、って思ってた」


純粋に父親に憧れる気持ちもあったのかもしれない。


「でも、それってキツいじゃん?何十年も頑張り続けるのってつらい。だから俺が代わりにやってやんないとなー、そう考えた」


『そうすれば父さん、休む時間が増える』とハラリ、声を落とした。


でも、と反論したくても言い返す言葉が見当たらない。


「俺は、ベース出来なくなるけど」


滑らかなベースの表面をするすると撫でて、真っ直ぐ俺を見据える。


「皐月に俺のベースやる。高校になっても、出来れば大学生になってもベースやってて。そんで大きなステージに立っちゃったりしてさ。……それで、だから。俺の代わりに夢を、叶えてくれよ」



直人が大事にしてきたベースを持つ手に、力が入る。


「皐月なら、絶対ベース俺より上手くなるから」

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