キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
「始めようか」
星渚さんがスティックをくるっと回して、合図。
碧音君達は頷いて真剣な表情になる。こうなると、もう皆の頭の中から私と浅野さんの存在は消えるのだ。
練習に集中するから、仮に私が話しかけても気づいてもらえないだろう。
「――僕はいつも君の背中を追いかけてる――」
ビリリ、体に電流が走るような感覚。他のバンドのライブを観てもこうはならないけれど、midnightは違う。
例え同じ曲を聞いたとしても、初めて聞いた時と同じように痺れる。
「――届かない悔しさに目を瞑っても、憤りで溺れたみたいに息が詰まっても――」
サビ前の不規則なリズム変化がたまらない、と浅野さんに伝えようとして隣を向いたら。
――――――虚ろ。うつろ、ウツロ。
その言葉が1番似合うと思った。
演奏に感動して瞳を輝かせているわけでもなく、何かに取り憑かれたみたいに見入ってもない。
自分の好みの曲じゃないから、興味が失せたからという感じでもなくて。
「浅野さん?」
「……」