キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
返事もなし。
「――どうして、君の隣に立てないんだ――」
空虚だった表情に、小さじ一杯分の負の感情――憎悪が加わった。
つい数分前までの浅野さんは、どこへ行ったの。
皐月がその顔見たら、心配しますよ。練習どころじゃなくなっちゃいます。
けれど浅野さんは負の感情を隠さず表情に出している。
もしかしたら浅野さん自身も、今自分がどんな顔か分かってないのかもしれない。
「どうだった?」
歌い終わった星渚さんに感想を求められると、ハッとしたように笑顔を繕う。
「す、ごいですね。聞き入っちゃいました」
『その台詞は本心ですか?』なんて私が言うべきではないよね。何故彼が嘘をつく理由が見つけられないから。
「さすがだろ!俺ら」
満足気に言うあたり、皐月は浅野さんの変化に気づいていない。いや、気づける方があり得ないのか。