キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
「………………皐月は、ずるいよ」
頭を垂れ先程とはうって変わり勢いをなくした声色になる。ずるいとは、何のことだ。
「ずっと、皐月のライブ行ったことないって言ってたけど。本当は、俺。皐月がライブやってる姿、見たことあった」
「は……?いつ」
「うちの会社、今度は音楽業界――特にライブ関係に手を出そうとしてて。そのための視察ってことで俺はいくつかのライブフェスを見学してた」
乾いた声で語られる。
「その時ちょうど夏に行われた野外フェスに行ったら皐月が、midnightがライブしてた」
そのライブの光景なら今でも鮮明に思い出せる。
アンコールで碧音君が歌った曲を聞いた際に感じた焦燥と共に。
「でっかいステージに立ちながらスポットライトを全身に浴びて思いっきりベース弾いてんだもん、お前。楽しくて楽しくてしょうがないって顔してさ。……見てる内に思った、何であそこに立ってるのは俺じゃないんだろうって」
ただただ、純粋に疑問に思った。
ステージと観客の距離はそう遠くはないはずなのに、まるで月に手を伸ばしているかのような距離を感じたのだ、と。
「midnightのこと、調べるうちにどんどん劣等感だけが強くなっていった。バンドの仲間もいる上に周りからも認められて実力もある、なんて」