キスと涙で愛を知る【加筆修正・完】
苦渋に歪んでいるだろう顔は、下を向いているため見えない。
「俺が、欲しかったもの、捨ててきたもの……お前が全部、持ってんだもん」
行き場を失くした、或いは迷子の小さな子供が出す、縋った声のような。
私よりも年上である浅野さんが、今は同い年いやそれ以下に思えてしまった。痛々しくて目を背けたくなる。
けれど碧音君は尚も同情の欠片すらない双眸で浅野さんを見据えていて。
不完全燃焼の劣情をまだ燻らせている。
星渚さんと藍はそんな碧音君に気を配りつつ、浅野さんと皐月のやり取りに耳を傾けていた。
2人の問題に介入する気はないようだ。私も勿論、傍観者の位置に徹している。
「将来のためにって夢を諦めてひたすら前を向いて走ってきた。けど、その分失ったものが多過ぎたんだ……俺は」
私には想像もできない日々を過ごしてきたに違いない。
「周りに心を許せる友達もいなければ先輩もいない。安心出来る居場所もない。でも現実を打破する力も、持ち合わせていない」
戸惑いと悲痛に、色濃く塗りたくられたそれ。